為替相場で円の投げ売りが止まらない。2022年6月13日の東京外国為替市場の円相場は一時、1ドル=135円20銭まで下落。不良債権問題など金融システムの混乱から円安が広がった1998年10月以来、約24年ぶりの円安水準となった。
この状況に苦虫をかみつぶしているのが政府・日銀だろう。為替相場の動きは政府・日銀の動きをあざ笑うかのようなものだったからだ。
市場に見透かされ「口先介入」不発に
「為替相場はファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)に沿って安定的に推移することが重要であり、急速な変動は好ましくない」
「最近の為替市場では急速な円安の進行が見られ、憂慮している」
財務省、金融庁、日銀は6月10日夜、最近の為替市場の動向に関する意見交換を開き、A4用紙1枚の「声明」を発表した。3者会合は2016年以来。通算38回目になるが、声明を出したのは今回が初めてだ。
声明では為替相場で過度な円安が続いた場合、「各国通貨当局と緊密な意思疎通を図りつつ、必要な場合は適切な対応をとる」と強く警告した。
会合終了後、「適切な対応とは為替介入も含まれるのか」と記者に問われた財務省の神田正人財務官は、「あらゆるオプションを念頭に置いて機動的に対応するということだ」と含みを残した。
円安阻止に向けた円買い介入を実施すれば、前回の円安局面の1998年以来となる。「伝家の宝刀」を抜くことを匂わせることで、市場の円売り圧力を和らげようとしたものの、「口先介入」は不発に終わった。
米国の了解なしに介入するのは困難と、市場に見透かされたのか、円相場は週明け6月13日の午前の取引で、あっさり135円台を突破。市場に「あらゆる手段と言いながら、政府・日銀に現時点でとれる手はない」と冷ややかな声が響いた。
金融政策見直しは黒田総裁の退任後?
「急速な円安の進行は日本経済にとってマイナス。好ましくない」
13日午後の参院決算委員会。135円を超える円安について問われた日銀の黒田東彦総裁は、こう強調してみせた。
その場が一気にしらけた雰囲気に包まれたのは言うまでもない。現在の円安環境を作り出している張本人の一人こそが、黒田氏だからだ。
世界の中央銀行はいま、新型コロナウイルス対応で導入した金融緩和策を見直し、利上げなど金融政策の引き締めに走り出している。
利上げペースを加速している米英に続き、金融緩和策を続けてきた欧州中央銀行(ECB)も6月9日の理事会で7月から利上げを開始すると表明した。
金融政策を引き締めることで需要を抑制し、過度なインフレを抑える狙いだ。
これに対し、黒田・日銀は日本経済がまだ回復途上にあるとして、大規模な金融緩和を継続する姿勢を変えていない。
日本と海外の金融政策の違いを見た投資家が、しばらく金利がほとんど付きそうにない日本を見限って円を売り、代わって金利が上昇しているドルやユーロに乗り換えているのが現在の姿だ。
「このままでは政治や国民の不満が一気に日銀に向かいかねない」
こう危惧するのは、日銀の現役職員だ。
「すぐに謝罪・撤回に追い込まれた『家計は値上げを受け入れている』発言を含め、国民は黒田総裁の『上から目線』の評論家のような態度に反発を強めている。いくら言葉で『円安は好ましくない』と言っても、金融緩和の変更をする気がない現状では説得力がない。このままでは日銀の声は国民にも、市場にもまったく届かなくなる」
黒田総裁の任期は2023年4月。市場では「日銀が金融政策を見直すとすれば、黒田氏の退任後だろう」という観測も広がる。
説得力を失った政府・日銀はそれまで耐えられるのか。(ジャーナリスト 白井俊郎)