「歴史」から示唆を得て「未来」を見通そう
「週刊ダイヤモンド」(2022年6月18日号)は、「世界史日本史 戦争・民族」を特集している。題して、「ウクライナの後が分かる歴史入門」。ロシアによるウクライナ侵攻を機に、世界秩序は大きくきしみ始めている。こういう局面こそ、歴史から示唆を得て未来を見通そうという企画だ。
人気のポッドキャスト「コテンラジオ」パーソナリティーの深井龍之介さんと室越龍之介さんがウクライナ侵攻を歴史の視点で語っている。
「ロシアは周辺国を脅すことでもしなければ、自国が縮小に追い込まれる脅威に歴史を通じてさらされてきた。この事実を理解する必要があります」と深井さん。また、室越さんは「ソ連はロシア帝国よりも大きく『版図』を広げたのですが、その結果、広い地域にロシア人やロシア語話者が増えました。ウクライナもそうした地域の一つです。ロシアにとっては、この人たちは守るべき仲間。この仲間に離れられると国が弱体化するという恐怖もある」と続ける。
プーチン大統領の属人的な問題に帰すのではなく、ロシアの内在的な論理が今回の侵攻につながったという解説は、腑に落ちた。
編集部による解説記事も充実している。
ロシアと中国を中心とする権威主義的陣営と、欧米を中心とする民主主義陣営との対立を古代ギリシアの大国の攻防に見立てている。
各地のポリス(都市国家)の中で、特に有力だったのが、スパルタとアテネだ。軍事国家のスパルタが最終的に勝利したが、「アテネの敗北は外部からの力によるだけではなく、衆愚政治という内側からの崩壊でもあった」と指摘。ポピュリズムが台頭する現代への教訓と見ている。
グローバル経済は2度目の終焉を迎えるかもしれない、という予測にも驚いた。世界はすでに一度、グローバル経済が拡大し、その後衰退していく過程を約100年前に経験しているというのだ。
欧米列強と日本が資源と市場を求め、アフリカやアジアに次々と植民地や勢力圏をつくった。いわゆる帝国主義の時代だ。だが、第1次世界大戦が勃発、グローバル経済は減退した。
現在のグローバル化の水準はもちろん当時と比べようがない。だが、歴史を踏まえれば、この水準が未来にわたって維持されるとは断言できないという。「グローバル化と国家主権、民主主義は同時に成立しない」という経済学者のダニ・ロドリック米ハーバード大学教授の言葉を紹介している。
歴史思考をつかむブックガイドとして、「陸と海 世界史的な考察」(カール・シュミット著、日経BP)、「ゲームチェンジの世界史」(神野正史著、日本経済新聞出版)などを挙げている。ウクライナ侵攻という事態を理解するには、さまざまなジャンルの勉強が必要なようだ。