鉄鋼大手各社の業績が急回復している。2022年3月期連結決算(国際会計基準)は、日本製鉄、JFEホールディングスの純利益が、前期から黒字転換し、ともにここ10年ほどで最高を記録、神戸製鋼所の利益も前期の2.6倍になった。自動車向けの鋼材の大幅値上げなどが効いた。
ただ、ロシアのウクライナ侵攻などによる原材料価格の高騰など先行き不透明で、好業績を持続できるか、予断を許さない。
「理不尽に安かった」日本の鋼材価格が是正へ
最大手の日鉄は、売上高が前期比1兆9796億円(41.0%)増の6兆8088億円、純利益は6373億円(前期は324億円の赤字)だった。いずれも旧新日鉄と旧住友金属工業が統合した13年3月期以降で最高だった。
2位のJFEは、売上高が同1兆1378億円(35.3%)増で過去最高の4兆3651億円、純利益は08年3月期以降では最高の2880億円(前期は218億円の赤字)だった。
神戸製鋼は売上高が同3770億円(22.1%)増の2兆825億円、純利益は600億円(前期比158.6%増)に伸びた。
各社の好業績の理由は、まず、大口納入先との鋼材価格交渉で、大幅値上げを勝ち取ったことだ。日鉄の平均鋼材価格は、21年1~3月の1トン8万9700円から、22年1~3月は同13万4600円へと1.5倍になった。
その象徴が、大口ユーザーであるトヨタ自動車との交渉だ。たくさん買ってもらう立場から、交渉はトヨタ優位が続いてきた。
だが、J-CASTニュース 会社ウォッチも「日鉄vsトヨタ 自動車部品向け鋼材の価格交渉、今後に禍根残す大幅値上げの決着」(2021年9月25日付)で報じたように、21年夏の価格交渉で日鉄は、「日本の鋼材価格は国際的に見て理不尽に安い価格で採算がとれない」(橋本英二社長)として、トン当たり約2万円の大幅値上げを要求。供給停止を辞さない姿勢でほぼ要求通りの値上げを勝ち取り、続く冬の交渉でも同程度の値上げを実現したとみられる。
こうした値上げの恩恵は、他の鉄鋼各社にも及んだ。
価格以外に、大規模な事業再編も利益改善に貢献した。日鉄は20年以降、高炉を15基から11基に減らしたほか、26年3月期末までに協力会社を含め約1万人を減らす計画が進む。JFEも東日本製鉄所・京浜地区(川崎市)の高炉1基を、24年3月期をめどに休止する。
今後のネックはやはり原材料価格上昇、価格転嫁できるか?
今後の業績を見るうえで、引き続く原材料価格の上昇を受け、価格転嫁がどうなるかが大きなポイントになるだろう。
日鉄の橋本社長は5月10日の決算発表記者会見で、「海外に比べてもまだ値段は安い」と、今後も値上げを求める考えを強調。JFEの寺畑雅史副社長も、平均で1トンあたり約3万円の上げを求めていることを表明した。
トヨタなど大手との「ボス交」で決まる「ひも付き」価格とは違い、一般に流通する「店売り」の価格は、足元では堅調。部品供給の混乱で生産が落ち込む自動車向けなど、鉄鋼の需要は低迷するものの、鉄鋼メーカーの生産調整が効いているという。
ただ、価格交渉が今後も順調にいくかは不透明だ。鋼材づくりに使う石炭価格は前年から5倍程度に跳ね上がっているが、ユーザー側もあらゆる原材料の値上がりで四苦八苦しており、鉄鋼の値上げ交渉がすんなり進む保証はない。
需要の減退も心配だ。部品不足で落ち込む自動車生産の回復のめどは立っておらず、日鉄は、改修していた名古屋製鉄所(愛知県東海市)の第3高炉の稼働(6月中予定)を延期することにした。ロシアによるウクライナ侵攻、円安の一段の進行など景気の先行き不安材料も多い。
こうした状況を踏まえ、23年3月期の業績見通しについて、神戸製鋼は前期比微減の600億円の純利益を見込むが、日鉄とJFEは「合理的な算定を行うことが困難な状況」などとして、明らかにしていない。
需要、価格の両面で、大手鉄鋼各社の業績はなかなか先を見通せない状況が続く。(ジャーナリスト 済田経夫)