オーナー系企業トップの事業承継は最難関「経営課題」 日本電産・永守重信氏CEO復帰で再認識...「我慢強さ」最も必要(大関暁夫)

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   4月ゴールデンウイーク前のことでした。日本電産の永守重信会長が、CEO(最高経営責任者)に復帰したとの発表がありました。

   社長兼CEOの職を日産自動車からスカウトした関潤氏に譲ってからわずか1年足らずでのCEO復帰は、オーナー系企業におけるトップの事業承継の難しさをにじませる出来事といえそうです。

  • オーナー系企業におけるトップの事業承継は難しい
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株価低迷に耐えられず...後任に託してから10か月での復帰

   永守氏は御年77歳。職業訓練大学校を卒業後、音響機器メーカーのティアック勤務を経て28歳で日本電産を起業。一代で、小型モータ製造会社として売上1兆6000億円を超す、世界トップシェア企業に育てたカリスマ経営者です。

   氏の後継問題は70歳を過ぎたあたりから、同社の重要経営課題として指摘をされてきた問題でした。そのため、昨年関氏にCEOを譲った折には、カリスマが自ら後任をスカウトしての決断が大きな注目を集めました。

   関氏に関して言えば、今後、日本電産の主力ドメインになると永守氏が考える自動車産業に明るい人物という視点から日産自動車で副CEOにあった関氏に目を付け、同社の立て直しに注力していた氏に熱烈なラブコールを送り続けてようやくスカウトしたという経緯があります。

   CEO交代に際して永守氏は、「日本では創業者から後継者に経営を渡してうまくいったケースはない。その第一号にしたい」とコメントするなど、関氏に対する並々ならぬ期待感がうかがわれたものです。

   今回、永守氏がCEO復帰を決めた最大の理由は、株価の低迷にあると言われています。関氏がCEOに就任した時点からのこの約10か月で、株価は約3割も下がっているのです。

   もちろん半導体をはじめとした資材不足により、同社の得意先業界の生産停滞などの不測の事態はあったとはいえ、22年3月期決算の連結純利益が目標に届かなかったのは事実です。これが株価に影響を与えたと考えたのか、永守氏の我慢はCEO交代からわずか10か月にして早くも限界を超えてしまったと受け取れます。

自身で会社を興し、事業を作り上げたオーナー系創業社長によくある話

   このカリスマ経営者の「短気」ともとれるやり方をどう見るかですが、規模の大小にかかわらず、ワンマン体制で事業を作り上げてきたオーナー系創業社長にはよくある話ではないかと、私は受け止めています。

   いかに入念な申し送りの上で引き継いだ後継者といえども、そもそもが自分と同じやり方など後継者には望むべくもないということを理解ができないのが、ワンマン経営者のワンマンたる所以なのですから。ましてや交代後に業績が下がる、などという目に見えるマイナスがあれば、黙ってみていろというのは土台無理な話なのです。

   中堅、中小企業では、同じようなケースを複数見てきました。

   そのような場合、どのような決着をみるかといえば、後継者が創業者のご子息である場合には、あれこれ口うるさく口出しはしながらも、いきなり倒産の危機にでも瀕しない限り、最終的にはあきらめの境地で徐々にフェイドアウトしていく、というのが普通です。

   しかし、後継者が他人の場合は、そうはいきません。永守氏と同様に、自身の発言権を再強化するような役員異動をしたり、さらに強硬な経営者の場合にはいきなり後継社長をおろしてクビにする、というケースもあります。

   このあたり、血縁者であるなら我慢が効く、そうでないなら我慢がならんというのは、自身がつくり育てた会社は自己の子供同じなのだ、ということではないかと思うのです。

   自分の子供と自分の子供のような存在である自社を天秤に乗せた時には、どちらの大切さも同じであり、どちら優先するかを選ぶのは難しく、とりあえず自分の子供の後ろ盾になりつつ、我慢を重ねるという選択が可能なのだと思うのです。

   しかし、後継者が他人の場合、何か会社にマイナスが生じたなら他人の手で自分の子供を傷つけられたかの如くに感じ、即刻「我慢がならん」ということになってしまうのではないのでしょうか。

「後継者独自の戦略を黙って見守る覚悟がないならやめたほうが...」

   「自社の将来を考えて、血縁ではない者を後継者に据えたい」と相談してくるワンマン経営者に対しては、「交代後の一時的な業績の低迷や、後継者独自の戦略を黙って見守る覚悟がないならやめたほうがいい」とお話しすることにしています(自社に対する執着心が薄い経営者の場合は、この限りではありませんが)。

   結果、近年では、血縁者に適任者がない場合にどうしたら最も従業員に迷惑を掛けないだろうかと考えて、最終的にM&Aで他人に経営を引き渡すという選択をされた経営者もいます。

   非常に賢明な選択だと思いました。人手に渡ってしまえば文句も言えなくなるわけで、相手をしっかり吟味した上で選ぶのなら、ある意味それが一番正しい選択にも思えるところです。

   さて、永守氏。氏にはご子息が2人いるのですが、氏自身が自社経営の世襲を好ましくないとして、ご子息はそれぞれ違った道を歩んでいます。

   世襲を禁止するのなら、血縁者ではない後継者に対してももっと我慢強くならなければ、結局、自身が口出しできなくなるほど体力的に弱ってしまうまで同じことの繰り返しになってしまうのではないかと、先行きが不安になってしまいます。

   M&Aで次々会社を買収して自社と一体にすることが得意な永守氏も、自社の経営を他人に引き継ぐことは苦手だったということになるのかもしれません。

   ソフトバンクの孫正義氏やユニクロの柳井正氏などもまた、同じお悩みをお持ちのように見受けられます。後継者問題は成功を重ねてきたカリスマ経営者にとって、最後でかつ最大の経営課題であると言っていいかもしれません。

(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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