アラフィフのパート主婦には夢がある。病気持ちの子どもを抱えてキャリアを失ったが、その子が成人する60歳ごろに「海外で働きたい」という夢だ。
「60歳を雇ってくれるおススメの仕事は何ですか?」という投稿が賛否激論になっている。「その年では無理だ。就労ビザを取るのが難しい」と断念を勧める意見と、「夢に向かって頑張れ!」とさまざまなアイデアを出して挑戦を勧めるエール。
女性が夢をかなえる方法はあるのか。専門家に聞いた。
ウクライナの高齢の避難者を思うと...
<パート主婦の夢「60歳から海外で働きたい」は無謀?希望アリ?で大激論! ユーチューバーというアイデアもあるが...専門家に聞いた(1)>および<パート主婦の夢「60歳から海外で働きたい」は無謀?希望アリ?で大激論! ユーチューバーというアイデアもあるが...専門家に聞いた(2)>の続きです。
――投稿者が一番希望していた「日本語教師」に関しても、実際の経験者から「収入が低い」「日本語を学ぶ人が減っている」と厳しい意見が多いです。
川上敬太郎さん「現実を知るという意味で、回答者たちからの厳しい指摘は真摯に受け止めたほうがよいと思います。また、60歳から海外移住して就労するという条件を考えると、厳しい指摘の数々は日本語教師に限らず、あらゆる職種においてもおおむね当てはまる内容なのかもしれません。
しかし、何事も可能性がゼロということはないはずです。できない理由を並べることは比較的簡単ですが、もし実現できる可能性が極めて少ないのだとしても、投稿者さんが本当に望む道なのであれば、出来る可能性を少しでも高めることだけを考えればいいのだと思います。
いま、ロシアからの軍事侵攻を受けてウクライナの方々が多数国外に避難していますよね。その方々の姿に日々心を痛め、一方で強く生きようとされている姿勢に胸を打たれます。海外に避難されている方の中には高齢の女性もいます。自身は望んでいないにも関わらず、年齢を重ねてから海外に移住して、仕事をしなければならない事態が現実として起こりうることを考えると、それを不可能だと安易に否定してしまうことはとてもできません」
「ユーチューバーは現実味のある柔軟な発想です」
――たしかにそうですね。「挑戦しなさい」というエールを贈る人たちは「ユーチューバーになろう」「起業をしよう」「クルーズ船で働こう」と、さまざまなアイデアを出していますね。
川上さん「ユーチューバーや起業など、一見するとふざけているようなアドバイスだと感じる人がいるかもしれません。しかし、投稿者さんの希望を実現することは簡単ではない、という前提に立つと、既成概念にとらわれず、発想はできる限り柔軟にしたほうがよいのではないでしょうか。
むしろ、簡単ではない道だからこそ、自らが最初の事例になるくらいのつもりで方法を模索し、後進のための道をつくるという考え方もあってよいのだと思います。そう考えると、回答者からのアドバイスは、いずれも決してふざけたものではなく、現実味のあるアイデアなのではないでしょうか。むしろ、既成概念にとらわれてしまうと、できない理由しか浮かんでこないように思います」
――現実的なアドバイスとしては、60歳になるまで10年間あるのだから、その間、就労ビザが取れるような資格の勉強をしよう、あるいはJICAの海外協力隊を目指そうという意見があります。
川上さん「ユーチューバーや起業などと同じく、難易度の高い選択肢だと思います。しかし、前例が少ない道を進まなくてはならないこと、10年という準備期間があることを考えれば、いずれも現実的な可能性を秘めた選択肢だと思います」
「今からプログラミングを覚えることも1つの方法です」
――川上さんならズバリ、投稿者にどうアドバイスをしますか。今後、どう生きたらよいでしょうか。
川上さん「投稿者さんは、しっかりと意志を持って、ご自身のキャリアをデザインしようと努めていると感じます。描いているのは、ほかの誰でもない、投稿者さんご自身の未来像です。いまはご自身にとって最優先の役割である子育てに真摯に向き合い、まずなすべきことをなしたうえで、さらにその次の道を考えようとされている姿勢に感服いたします。
ただ、今時点では進みたい道が具体的にはイメージできていないようです。今のうちから正解を1つに絞ってしまうのではなく、ご自身のキャリアを一から再構築するつもりで、さまざまな可能性を模索されてよいのではないでしょうか」
川上さん「人生100年時代に、年齢を重ねた後も長く働き続けていくことを想定した場合、多かれ少なかれ、インターネットの活用は必要になってきます。少しでも仕事で使う場面を増やし、慣れておかれたほうがよいでしょう。また、必ずしも海外移住を前提にする必要がないのであれば、インターネットを介した仕事なら、日本にいながら海外からも仕事を請けることが可能です。
たとえば、今からプログラミングを覚えることも1つで、ネット上でさまざまな仕事を請けるクラウドソーシングなどもあります。今から少しずつでも始めていかれれば、60歳になられる頃には10年の実績が積み重なっています。
仕事は必ずしも1つに絞る必要はありません。今は副業も市民権を得てきました。枠を狭めてしまわず、できそうなこと、やってみたいことを少しずつ経験していくなかで情報が増え、10年後どうなっていたいかが、ご自身の中でより具体的にイメージできるようになってくるでしょう。すると、取得したい資格や学び直すべきことなども具体的に見えてくるのではないでしょうか」
子育てしながら女性も男性もキャリアを磨ける社会に
――なるほど。少しずつできることから始めて、情報を増やしていこうというわけですね。
川上さん「男性は仕事、女性は家庭という性別役割分業が長く根づいてきたため、これまで女性の職業キャリアは当たり前のごとく中断させられ続けてきました。投稿者さんも、そんな過去の考え方・価値観の影響を大きく受けて振り回されることになってしまったお一人かもしれません。
もちろん子育てもまた立派な役割ですし、仕事を辞めて子育てに専念する選択もあってよいはずです。しかし、子育てと仕事の継続は二者択一でなければならないと決めつけるのもまた、おかしなことだと思います。
子育てをしながらでも、女性も男性も職業キャリアを中断させることなく磨き続けることのできる社会に転換していかない限り、投稿者さんと同様の境遇に置かれてしまう方は、今後もなくならないのだと思います」
(福田和郎)