アラフィフのパート主婦には夢がある。病気持ちの子どもを抱えてキャリアを失ったが、その子が成人する60歳ごろに「海外で働きたい」という夢だ。
「60歳を雇ってくれるおススメの仕事は何ですか?」という投稿が賛否激論になっている。「その年では無理だ。就労ビザを取るのが難しい」と断念を勧める意見と、「夢に向かって頑張れ!」とさまざまなアイデアを出して挑戦を勧めるエール。
女性が夢をかなえる方法はあるのか。専門家に聞いた。
英語は得意&職歴に教育関係「日本語学校の先生」はどうか?
話題になっているのは女性向けサイト「発言小町」(2022年5月23日付)に載った「60歳からの海外就労」というタイトルの投稿だ。かいつまんで紹介すると、こんな内容だ。
「アラ50パート主婦です。高齢出産で、子どもが病気を持っていたため、出産後に仕事を辞めました。10年ほど無職を経て、今は短時間パートしています。子どもは普通に学校に通っていますが、まだ通院や遅刻欠席早退が多く、私がフルタイムで働くのは難しいです」
そして、子どもが自分で通院できるようになったら、フルタイムで働きたい。「できれば子どもが成人し、私が60歳くらいから10年程度、海外就労できたらいいな...と夢想しています」というのだ。そして、
「60歳の日本人おばあちゃんを雇ってくれる(ビザサポートをしてくれる)業種とか、オススメの国とか、何か情報がありましたら教えていただけませんか」
と呼びかけた。
語学力や海外経験については、「英語は生活できる程度には使えて」「TOEICはたぶん900くらい」という。米豪加に数か月ずつ滞在経験があり、英語が通じる中華圏にも数年ほど就労経験があるらしい。職歴は「教育関係が中心」なので、日本語学校の先生や海外在住日本人家庭の子守りを考えている。
ただ、投稿者は「ホントは離婚したいのです」と本音も明かしている。「病児が産まれて壮絶な育児の中で、夫は『オレは仕事があるから』の一点張りで、私は復職できずにワンオペ育児」を強いられてきたからだ。おそらくはそうした気持ちともあいまって、日本でも海外でもどこでもいい。70歳くらいまで働きたい、とも。
「60歳なんてその後の人生何十年もある。まだ若いのに、そんなに可能性を狭く考えなきゃいけないなんてさびしいですね」
と訴えるのだった。
「現地の大学で学んだ若者も就労ビザを取れなかった」の声
この投稿に対する回答で多かったのは「気持ちはわかるが60歳からでは海外で働くのは無理」「就労ビザを取るのが難しい」と冷静に諭す内容だった。
「その国で求められている資格やキャリアを日本で取得(医療・介護・土木・農業・ITなど)すればあり得るかもしれませんが、スキル系の就労ビザは年齢が高いほど取得が難しくなります。語学を現地の大学院で勉強し、現地の高校でパートタイムの日本語教師を経験した20代の知人も、学生ビザが切れた後に就労ビザを取得できず泣く泣く日本に帰国しました」
「厳しい事を言いますが、60歳で勤務先や職種を選べるのはごく一部の人たちだけです。日本国内での就職を考えても同じですよね。海外就労になるとその選択肢はさらに狭まります。一般的な60歳をビザまで出して雇ってくれる国があれば奇跡です。(中略)健康面を考えると渡航は早めがよいでしょう。年齢が上がると海外旅行保険さえ入るのが難しくなります」
医療・健康面の配慮も必要だという指摘も多かった。
「現地で、どのような医療・介護保険に加入できるか?いくらかかるか?年金はどうなるか?等も情報収集し検討をお勧めします。年金などは(その国が)日本と社会保障協定を結んでいるか否か?によって異なります」
投稿者は「日本語教師」を希望しているが、実際に海外で日本語教師をしている人からは厳しい報告が相次いだ。
「欧州で日本語教師をしています。(中略)これで生活できるかというと、家賃すらままならないのでは。ビザを取得するなんてとてもとても...。私の所属している語学学校は、採用は既に滞在できるビザを持っていることが前提」「授業は現地語と日本語を使っており、英語は使っていません。(中略)みなさんしっかりした配偶者がいますし、私自身、配偶者の収入がなかったらとても生活できません」
「ニューヨークで30年以上日本語を教えてきたものです。今世紀に入って、日本語学習者の数は激減しています。日本という国の経済力が非常に落ちているので、一昔前のように投資関係のスタッフや弁護士を、会社丸抱えでいわゆる巷の『日本語学校』に通わせる慣習はまずなくなりました。ただ、大学は別。(中略)大学は学歴重視で採用します。修士号を持っておられれば、有利。私のように学士号しか持っていない人間はパートとして週2コマとか4コマもらうのがせいぜいです」
「おばさんユーチューバーなんてどうでしょうか」
一方、「人生一度きり」と、非常に厳しいが「夢に向かって頑張れ!」とさまざまなアイデアを提案して、エールを贈る人も多かった。
「SNSを駆使してユーチューバーなんてどうでしょうか。観光ビザで3か月、国によっては半年以上滞在できます。オーバー60の女性が1人で、海外で元気に右往左往サバイブする動画。若い子の海外チャレンジ動画は掃いて捨てるほどありますし、おじさんの海外旅行Vlog(ヴイログ)もよく見ますが、おばさんの動画はほぼ皆無なのでは。(中略)撮影と編集のノウハウは本も出ているし、動画も沢山あります。最低限必要なのはスマホだけ」
さらには、起業してはというアイデアや、海外協力隊員を勧める意見もあった。次のような具体的なアドバイスも。
「国によっては、起業して経営者としてのビザが割と簡単に取れると思います。各国のビザ制度を調べて、条件をクリアできそうな国でのビジネスプランを考え、最低限の資金をためて移住、起業する。リタイアメントビザ(=通称退職者ビザ、主に年金受給者などを対象にした長期滞在ビザ)があり、短期ビザを繰り返しとって実質的には長期滞在ができる国で、労働、特にリモートワークが許可されている所があるかもしれません。移住前にリモートで働ける職を見つけ、オンラインビジネス(家庭教師・日本語教師・ネットショップ・コンサルタント...)を立ち上げ、そういう国に移住する」
「JICA(ジャイカ、国際協力機構)の海外協力隊がいいと思います。190種類くらい職種を募集しています。応募要項をチェックしてみてください。あとはEPA(経済連携協定)で日本に来たい外国人に渡航前に初級日本語を教えるとか。日本語教師自体は資格を取れば50代で初めてでも採用されるし、非常勤なら週1日から働けます。海外で教えたいとしても、日本で経験を積み、しっかり教授法を学んでから行くのがいいと思います」
今回の「60歳になってから海外で働きたい」という話題に対して、さまざまな意見が寄せられています――。<パート主婦の夢「60歳から海外で働きたい」は無謀?希望アリ?で大激論! ユーチューバーというアイデアもあるが...専門家に聞いた(2)>に続きます。
(福田和郎)