ウクライナより手強い台湾、中国は侵攻するのか?
一方、台湾侵攻をもくろむ習近平国家主席にとって、ウクライナの抵抗の激しさは衝撃だったはずだとの見方を示すのは、公益財団法人・東京財団政策研究所主席研究員の柯隆(か・りゅう)氏だ。
柯隆氏のリポート「中国からみたロシア・ウクライナ紛争とそれにかかわる地政学リスク」(6月3日付)では、ウクライナと台湾の経済力と軍事力を比較した表を示している=図表参照。
これを見ると、台湾のほうがウクライナより経済力(GDP=国内総生産)ではおよそ4倍、軍事力(予備役も含めた兵力)では約9倍あることがわかる。プーチン大統領が手を焼いているウクライナより台湾のほうがはるかに手強い。そこで、柯隆氏はこう説明する。
「実はロシアのウクライナ侵攻は習主席に大きなショックを与えている可能性が高い。習政権は自らの正当性を証明するために、一日も早く台湾を併合したい。中国はアメリカやヨーロッパから軍事技術を輸入できない。中国の軍事技術のほとんどはロシアに頼っている。そのロシアは陸続きのウクライナに侵攻しても、なかなか攻略できていない」
しかも、中国はロシアより圧倒的に不利な条件がある。台湾海峡の存在と、台湾の経済力だ。
「中国人民解放軍は台湾に侵攻する場合、台湾海峡を渡らなければならない。台湾はアメリカから最先端の戦闘機を輸入し保有している。現状のままでは、人民解放軍が台湾に侵攻しても、攻略できない可能性が高い」
「確かに中国の経済規模は名目GDPについては世界2番目だが、ハイテク製品と商品の輸出は主に中国に進出している多国籍企業によるものである。外国資本がもっとも嫌うのはリスクである。人民解放軍が台湾に侵攻した場合、まず台湾企業は中国を離れる。それと同時に、日米欧の多国籍企業とその部品メーカーなども中国を離れるだろう。中国は技術を失うだけでなく、雇用機会も喪失してしまう」
「中国の富裕層は大挙して金融資産をアメリカやタックスヘイブンに逃避させる。つまり世界2番目の経済といえども、あっという間に空洞化してしまう可能性が高い。何よりも習政権にとって不利なのは中国経済が今、急減速していることである」
では、習主席はどうするのだろうか。柯隆氏は、こう結んでいる。
「合理的に考えれば、習主席は台湾侵攻を決断しないはずである。しかし、プーチン大統領と同じように強権政治の致命傷により間違った決断を行う可能性を完全に排除できない。重要なのはそれに伴う地政学リスクを管理することである。リスクというのは絶対に起きないと考えるのではなく、その可能性を念頭に危機に備えておくことが重要である」
(福田和郎)