三菱電機の不正検査問題が泥沼化している。
外部の調査委員会が2022年5月25日に調査報告書をまとめ、全国22か所の製作拠点のうち7割にあたる15製作所で新たに101件の不正行為が確認された。
すでに判明していた分を含めた総数は16拠点、148件に拡大したが、これでもまだ調査は途中段階だという。文字通り、底の見えない状況が続く。
50年前から必要な検査をしてこなかった伊丹製作所
「お客様、関係者の皆様に多大な心配と迷惑をかけた。あらためて深くお詫びする」。漆間啓社長は5月25日の記者会見でこう陳謝したが、顧客企業の中には同社への発注を手控える動きもあり、名門企業の凋落は避けられない状況だ。
J-CASTニュース 会社ウォッチが「三菱電機、絶つことできない不正の根 悪質で深刻、自浄作用なし!」(2021年7月21日付)、「歯止めがかからない三菱電機の検査不正 調査終了は4割、新たな発覚があるかも?」(2022年1月8日付)と、繰り返し報じてきたように、三菱電機では2021年、長崎製作所で30年以上にわたり鉄道向け空調設備の不正検査が続けていたことなどが発覚。当時の杉山武史社長、柵山正樹会長が相次いで引責辞任に追い込まれている。
今回の報告書であらためて浮き彫りになったのは、組織ぐるみとしか言いようのない三菱電機のずさんな検査対応だ。
これまでに判明した148件のうち半分近い66件は、単純な作業ミスではなく、意図的な不正行為であったと認定され、このうち15件では管理職が指示、了解していた。
伊丹製作所(兵庫県)では遅くとも1972年ごろから必要な検査を実施してこなかったことが判明。別の製作所では不正検査が社会問題化し、杉山社長、柵山会長が引責辞任した後も不正が是正されることなく続いていた――というから驚きだ。
「不正が当たり前になり、惰性になっていた」
なぜ、これほどの不正が放置されていたのか。
漆間社長は「順次調査していく中で判明したもので、隠していたわけではない」と意図的な隠蔽は否定した。だが、調査委は、利益優先の企業体質が不正を生む土壌になったとにらんでいる。
実際、社内ではコストや納期を守るため、高額な設備が必要になる検査や手間のかかる工程を意図的に省いたり、正常な検査をやったかのように装う虚偽の書類を顧客に渡したりする行為が常態化していたという。
「不正が当たり前になり、惰性になっていた」
調査委の木目田裕委員長(弁護士)はこう指摘する。安全の基本である検査をおろそかにする姿勢は、発電所や鉄道といった基幹インフラにかかわる製品を手がける企業にとして致命的だ。
調査委に社内から寄せられた情報は2300件を超える。このうち、今回の報告書までに調査を終えたのは1900件程度と全体の8割にとどまる。
三菱電機は報告書公表直後の27日、エレベーターの安全装置に関する書類に不備があったまま国土交通大臣認定の確認申請をしていたと発表した。報告書でも不正の可能性に簡単には触れてはいたものの、国交省への報告を待って公表したため正式な説明が遅れたという。
調査委に寄せられた残る400件の追加調査で新たな不正の事実が明らかになる可能性は極めて高いといえるだろう。
「品質軽視、(自社の)正当化を是正しなければ再発防止はできない」
調査委の木目田委員長はこう強調した。
三菱電機は社内の人事制度の改革など再発防止策を講じるとしているが、会社の風土が変わらなければ、どのような取り組みをしても元の木阿弥だろう。再生の道は険しい。(ジャーナリスト 済田経夫)