投資すると、なぜ中長期的に増えることが期待されるのか? この問いに答えるのはなかなか難しい。なぜなら厳密に言えば資産価値が増える保証など、どこにもないからだ。
しかし、増えることが十分期待されるような投資がある。果実を生むものを購入することだ。
株式投資の「果実」は配当
たとえば、畜産農家が家畜を購入するのは、羊や牛や馬が子供を生んでいくことを期待するから。果樹農家が果物の苗木を買うのは、毎年毎年果物がなることを期待するからだ。
会社の株式を買うのにも同じ目的がある。将来会社が利益を上げてくれて、株主に配当を払ってくれるということだ。この場合は配当金が果実に相当する。債券を買ったり預金をしたりする場合は、金利収入が果実に当たる。
また、不動産の場合はそのスペースを賃貸に出して賃料収入を得ることが果実となる。
これらがいわば投資の「果実」とも言えるものだ。まとめると、以下のようになる
債券や預金 利息を生む
株式 配当金を生む
不動産 賃料を生む
そして大事なのは、果実は複利で増えていくということだ。果実が生まれると、その果実がさらに新しい果実を生み出してくれる。雪だるま式に増えるといっても良い。複利は長い年月を減ると恐ろしい威力を発揮する。
たとえば、100万円を元手に複利で増えていくとしよう。年利3%で増えるとどうなるか。
1年後には103万円
5年後には116万円
10年後には134万円
20年後には180万円
30年後には242万円
というふうに増えていく。
10年で1.34倍、20年で1.8倍、30年で2.42倍になる。もう一度言うが、これは100万円が年利3%(複利)で増えていくとこれだけ増えていくということである。
では、年利5%で増えるとすると、どうなるか。
1年後には105万円
5年後には127万円
10年後には162万円
20年後には265万円
30年後には432万円
つまり、10年後に1.62倍、20年後に2.65倍、30年後に4.32倍になるということだ。
さらに年利10%で増えるとするとどうなるか。
1年後には110万円
5年後には161万円
10年後には259万円
20年後には672万円
30年後には1744万円
となる。
10年後に2.59倍、20年後に6.72倍、30年後に17.44倍になるというものすごい増加率だ。
資産運用の王道は複利でじっくり増やしていくということだと言われるが、その理由は一目瞭然であろう。こんなに大きく安定的に増えていく投資は他にないからだ。
しかし、そのためには我々は一つの投資をしたらじっくりと腰を据えていくことが必要になる。いろんな投資商品を次々に乗り換えていったら複利の効果が失われてしまう。
株式投資とはリスクをとって将来のリターンを得ること
債券や預金の場合は決まった金利を受け取れるので、先の見通しを立てやすい。しかし今の円の金利は非常に低いのが難点である。年利0.1%といった数字を聞くとがっかりする。それでも20年後には1.22倍に、30年後には1.34倍に増えていく。長く続けることによる複利効果は絶大なものがあるのだ。
一方で株式の場合は、その果実(配当金)を安定に受け取れるわけではないし、価格変動も大きいので先を読みづらい。「株式投資は怖い」というような話が出るのも当然だ。確かにリスクは高めである。しかし、その分大きいリターン(儲け)も期待できる。
株式に投資するということは、企業の株主(オーナー)になるということだ。オーナーになるとは、すなわちリスクを取ることと引き換えに、将来のリターンを得る立場になるということだ。不安定さはあるが、リスクを大きく取る分、「果実も大きく」得ることが期待できる。
では、実際に株式投資でどれくらいのリターンが得られるだろうか。チャーリー・ビレッロ氏が米国の投資商品ごとの損益の実際の数字を出しているので見てみよう。期間は2011~22年4月28日までの11年強。株式に加えて債券の数字も比較のために載せておく。どちらも市場の全体像を示すETF(上場投資信託)をベースに出した数字だ。
2011~22年までの一年間の平均リターンはこうなっている。
米国の債券(BND) 2.3%
米国の大企業の株式 (SPY) 13.6%
同じ時期の累積のリターンはこうなっている。
米国の債券(BND) 29.4%
米国の大企業の株式 (SPY) 322.0%
長く続けていくと投資リターンが高くなることがはっきりとわかるだろう。債券も決して悪くないが、株式を11.5年持ち続けることで4.2倍になるというのはスゴイ!
株式投資のスゴさ!
これについては「リーマンショック後のこの時期の相場がたまたま好調だったからの話で、ふつうはこんなに増えないのでは?」という反論があり得るだろう。
大丈夫。ビレッロ氏はそれも出している。1928~21年の期間の株式(SPY)のリターン(増加率)のメディアン(中央値)の数字だ。1928年からの100年近くのデータを取ったものである。この間には1929年の世界恐慌のような最悪の時期も含まれているので、より普遍性の高いデータだといって良いだろう。
保有期間ごとのトータルリターンを見るとこうなっている
1か月 3.3%
6か月 7%
1年 13%
5年 72%
10年 164%
15年 353%
20年 742%
30年 2191%
米国の大企業の株式を10年保有していたら2.6倍に、20年で8.4倍、30年で22.9倍になったということだ。過去100年近くの期間の中央値であるのでかなり信頼性の高いデータだと言って良いだろう。
もちろん、これは中央値であるので、半分はこれより劣る。運が悪ければ大きく下落する場合だってあることに注意する必要がある。また、今までのパフォーマンスが良かったからといって今後も必ず良くなるという保証はない。
しかしそれでも、これが株式投資のすごさを端的に示しているデータであることは間違いないところだ。
最後に、果実を生まないモノへの投資についてもふれておこう。
金や原油や骨董品...... は果実を生まない。金を買ったら金がそのままあるだけであり、利息や配当はつくことはもちろんない。これらのものの価格は状況によって上がったり下がったりするが、複利効果はないので、長く持っていることで価格が当然のように大きく上がっていく、といったことはない。
なので、これらを投資の中心に据えることを私は推奨しない。しかし、これらの投資にもメリットがある。
たとえば株式が暴落するタイミングには、こういうものの価格は堅調である場合が多い。株式や不動産などとは価格変動のパターンが異なるということだ。そのためこれらの資産をある程度持っているとリスク分散になる。
このメリットをどうとらえるかによって、これらのモノをどの程度ポートフォリオに含めるかどうかが決まる。
(小田切尚登)
「30歳のあなたに1億円が舞い込んできたら」シリーズは、こちら。
▼30歳のあなたに1億円が舞い込んできたら...真剣に考えたことある? いくら運用にまわす【その1】(小田切尚登)
▼30歳のあなたに1億円が舞い込んできたら...成功する投資家の理想的な姿はこれだ!【その2】(小田切尚登)
▼30歳のあなたに1億円が舞い込んできたら...投資に向いているタイプとそうでないタイプ【その3】(小田切尚登)
▼30歳のあなたに1億円が舞い込んできたら...資産を増やすには「果実を生むモノ」を購入すること【その4】(小田切尚登)