30歳のあなたに1億円が舞い込んできたら...投資に向いているタイプとそうでないタイプ【その3】(小田切尚登)

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   明治大学の経営大学院(MBAコース)で金融論を担当している。その中で毎年、以下の問いを学生に毎年出している。

「親戚の金持ちのおじさんが亡くなり、30歳のあなたに1億円の財産が舞い込んできました。これをどのように運用していきますか? その内訳をざっくりパーセントで示してください。あなたは借金がなく、定収入もあるので、この1億円には手を付ける必要がない、という前提で回答してください。」

   学生の回答を見て感じた三つ目のポイントはこれだ。

  • 株式や不動産への投資配分が大きいと市場の価格変動で過大な影響を受けてしまう
    株式や不動産への投資配分が大きいと市場の価格変動で過大な影響を受けてしまう
  • 株式や不動産への投資配分が大きいと市場の価格変動で過大な影響を受けてしまう

「価格変動が大きい資産への投資は抑えるべき」

「株式や不動産のような価格変動が大きい資産への投資は全体の半分以下に抑えるべき」

   ハイリスクへの投資に多くを配分するようなポートフォリオは、市場に大きな変動があった時に過大な影響を受けてしまう。価格の下落にどの程度耐えられる分配になっているかを常に考えておく必要がある。

   株式や不動産は暴落することが、ままある。近年のS&P500(米国の大企業500社の株価指数)の動きを見ると、2000~02年(ネットバブルの崩壊)と、2007~09年(リーマンショック)の2回、半分に下がっている。我々は十年とか二十年に一度くらいは、株価が半値になる可能性があると想定をしておく必要があるということだ。

   このところ、米国の株価は下落傾向にある。S&P500は年初から1割以上下がった。これから、さらにどうなっていくかは神のみぞ知るところであるが、米国の景気がかなり不透明になってきたことと、それまで十年以上に渡り上昇を続けてきたことを考慮すると、今後さらに大きく下がっていくというシナリオも当然考えられるところだ。

   こういう変動が大きい投資商品に持ち金の半分以上をつぎ込むというのはリスクが高い行為だ。仮に株式や不動産に1億円の半分、すなわち5000万円を投資したとする。それが半値に下がったとすると2500万円を失うことになる。相当な損失額である。

   それでも残り半分の5000万円がほぼそのまま残っているはずであること、そして下がる時もあれば上がる時もあることを考えると、中期的なスパンで考えれば許容範囲だとみなすことも可能であろう。ある時点で全体の価値が1億円から9000万円や8500万円とかに下がったとしても、仕切り直しをしていくことができれば良い。

   それがOKだと思えば、資産の半分を株式や不動産に配分しても良いだろう。しかし、自分にはそのくらいの一時的な損失も耐えられない、ということであれば、ハイリスクな投資を半分でなく4割とか3割とかに減らしていく必要が出てくる。

投資に向いている人はこんな人

   さて、今度はネガティブな話からポジティブな話に話題を移そう。相場が上向いたときに、いかにうまくその波に乗っかっていくかということだ。

   株価は企業業績の鏡であり、マクロ的には国の経済動向を反映している。つまり景気の良い時には、株価も不動産価格も大きく上がる可能性があるということだ。

   日本経済はこのところ停滞しており、株価も低迷していたので、前向きなシナリオを実感することは難しかった。しかし米国の経済は成長してきたので、株価は上昇してきた。

   前述の米株価指数S&P500は、2011年から22年4月28日までに累積で4.2倍に増えた。年利に換算すると13.6%の増加率である。好景気が持続したことがその背景にある。ハイテクやバイオを中心に、さまざまなイノベーションがどんどん起きてきたこと、米国民の消費意欲が強い状態で推移したこと、中国をはじめとする新興国とのビジネスが膨らんだことなどが貢献した。

   米国では不動産も上昇してきた。米国の不動産価格は2011~22年までに累積で3倍以上、年利で10.3%増えた(不動産ETFのVNQのデータによる)。加えて、株式も不動産も円ベースで考えたら、円安(ドル高)なのでさらに増えている。

   今まで好調に推移してきたのはわかったが、今後どうなっていくかが我々の関心事である。前述のように半額になるような事態も当然あり得る。

   しかし、中長期的には今後も株価は上がっていくと見てよいのではないか。科学技術は発達し、生産性は向上していくだろう。先進国も途上国も人々はさらに豊かになっていくだろう。企業収益が上がっていけば、株価もそして不動産の価格も、短期的には紆余曲折があるとしても、中長期的には上がっていくと考えて良いだろう。

   そうであれば、株式市場に投資しない手はない、ということになる。というよりも、投資というのはそういうふうに将来を楽観的に考えられる人がするものだ。先に明るい未来があると思えるからこそ、長い年月をかけて投資で増やしていくことを考えるようになる。

   「基本的には楽観的であり、一定程度のリスクを取ることは厭わない。でも天真爛漫ではなく、適度な注意深さを有している」...... こういう人が投資に向いている。

   そういう人が、過度なリスクをとることなく、しかし相場が良い状況では上昇気流には乗れるような「イイところどり」ができるポートフォリオの構築をする。そうすれば、真の成功者になれるであろう。

(小田切尚登)

「30歳のあなたに1億円が舞い込んできたら」シリーズは、こちら。
30歳のあなたに1億円が舞い込んできたら...真剣に考えたことある? いくら運用にまわす【その1】(小田切尚登)
30歳のあなたに1億円が舞い込んできたら...成功する投資家の理想的な姿はこれだ!【その2】(小田切尚登)
30歳のあなたに1億円が舞い込んできたら...投資に向いているタイプとそうでないタイプ【その3】(小田切尚登)
30歳のあなたに1億円が舞い込んできたら...資産を増やすには「果実を生むモノ」を購入すること【その4】(小田切尚登)

小田切 尚登(おだぎり・なおと)
小田切 尚登(おだぎり・なおと)
経済アナリスト
東京大学法学部卒業。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバなど大手外資系金融機関4社で勤務した後に独立。現在、明治大学大学院兼任講師(担当は金融論とコミュニケーション)。ハーン銀行(モンゴル)独立取締役。経済誌に定期的に寄稿するほか、CNBCやBloombergTVなどの海外メディアへの出演も多数。音楽スペースのシンフォニー・サロン(門前仲町)を主宰し、ピアニストとしても活躍する。1957年生まれ。
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