「日本の財政赤字は小さ過ぎる」...読んで納得!MMT理論わかりやすい解説本

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   「日本の財政赤字は危機的な状況にある」と思われる人は多いのではないだろうか。そんな人が、本書「楽しく読むだけでアタマがキレッキレになる 奇跡の経済教室 【大論争編】」(KKベストセラーズ)を読めば、驚くこと請け合いだ。

   経済常識が180度変わるかもしれない。政財界に物議をかもした「奇跡の経済教室」シリーズ3冊目の本書は、財務省の矢野康治事務次官が月刊誌「文藝春秋」に書いた論文を徹底的に批判するとともに、「考える力」を身につける効用を持つ、とうたっている。

「楽しく読むだけでアタマがキレッキレになる 奇跡の経済教室 【大論争編】」(中野剛志著)KKベストセラーズ

   著者の中野剛志氏は、元京都大学大学院工学研究科准教授の評論家。専門は政治思想。1996年東京大学教養学部卒。通商産業省(現・経済産業省)に入省。エディンバラ大学大学院に留学、博士号を取得。著書に「日本思想史新論」「TPP亡国論」などがある。

   2019年に刊行された「目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】、「全国民が読んだら歴史が変わる 奇跡の経済教室【戦略編】は、累計13万部を超えるベストセラーになった。

   著者の中野氏は、矢野氏の論文「財務次官、モノ申す『このままでは国家財政は破綻する』」(「文藝春秋」2021年11月号所収)を素材に、日本は財政破綻するのか、財政赤字はツケなのか、インフレは制御可能か、などを論じる。結論としては、「日本は大規模で長期的で計画的な積極財政を必要としている」ことを強調している。

  • 経済をテーマに「考える力」を身に着けよう
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矢野論文の5つの論点を検証

   順を追って説明すると、矢野氏の論文が話題になったのは、岸田政権が誕生し、与野党から財政出動や減税を求める声にクギを刺す内容だったからだ。「バラマキ合戦」と批判し、このままでは日本の財政はいずれ破綻すると警鐘を鳴らすものだった。

   これに対して、自民党の積極財政派からは批判が出たが、産業界やメディア、学界からは好意的な反応が多かったという。

   矢野論文の主張を5つの論点にまとめている。

・日本は財政破綻に向かっている
・我が国の財政赤字は過去最悪であり、他のどの先進国よりも劣悪である
・政治家のバラマキ合戦のような政策論は嘆かわしい
・給付金を支給しても貯蓄に回るだけであり、過剰な補助金はかえって企業の競争力を削ぐ
・経済成長だけで財政を健全化するのは夢物語

   中野氏は、とりわけ最初の論点が、「財務次官にあるまじき行為」だと強く批判している。それは、「日本国債の格付けが下がり、日本経済全体に悪影響を及ぼしかねないメッセージを送ってはならないと言いながら、そういうメッセージを自分が送ってしまった」ことだ、と指摘している。その他の論点も、明快に退けている。

   財務次官が日本の財政に対する市場の信認を傷つけたわけだが、金融市場は奇妙な反応だった。実は、ほとんど反応しなかったのだ。金利は超低水準のまま上がらなかった。それは日本が財政破綻することは考えられないからだ、と説明している。

   それなのに、なぜ「増税の議論が必要だ」とか「国債を発行して将来世代にツケを回してはならない」とか言う人が多いのか。

   このあたりから経済理論が登場する。

   本書はまず、経済学者アバ・P・ラーナーの「機能的財政」を紹介する。これは、

「自国通貨を発行できる政府は、予算の収支を均衡させる健全財政を目指す必要はない。財政支出を増やすか減らすか、課税を軽くするか重くするか、国債を発行するかしないか、といった判断は、それらが国民経済に与える影響を基準にすべきだ」

という考え方だ。

   「ようするに、財政赤字は悪、財政黒字は善なのではありません。財政赤字(あるいは黒字)が国民を幸福にするなら善、不幸にするなら悪」だと、説明している。

   したがって、財政赤字の上限は、インフレ率で判断すべき、だと主張。財務省が言う「政府債務/GDP」や「プライマリーバランス」ではない、と退ける。

   それらが上がり続けているのに、日本はインフレどころかデフレが続いている。中野氏は「日本の財政赤字は、多き過ぎるのではなく、小さ過ぎるのです!」と書いている。

あらためて、MMT(現代貨幣理論)とは何か

   次に、「信用創造」をテーマに論じている。いま話題のMMT(現代貨幣理論)について、以下のように説明している。

「まず、政府は通貨(円、ドル、ポンドなど)を法律によって決める。
 次に、国民に対して、その通貨の単位で計算された納税義務を課す。
 そして、政府は、通貨を発行し、租税の支払い手段として定める。
 これにより、通貨には、納税義務の解消手段という『価値』が生じる」

   ようするに、人々がお札という単なる紙切れに通貨としての価値を見出すのは、その紙切れで税金が払えるからだということだ。

   この説明は、MMTの論者が思いついたわけではなく、ドイツの経済学者ゲオルク・F・クナップが1905年に示し、ケインズも同意し、先に述べたラーナーもクナップの貨幣論をもとに、「機能的財政」の考え方を導き出したという。

   だから、MMTは「こうした先人たちの業績の上に成り立った強固な理論」だと擁護する。

   さらに、MMTの理論に基づき、「税は、財源確保の手段としては必要ではないが、国民経済を調整する手段としては不可欠」「政府支出は同額の民間貯蓄を増やしている」と展開している。

   MMTについて「財政赤字を無尽蔵に膨らませても大丈夫だという主張」だと誤解する人が非常に多い、とこぼしている。具体的に、何人もの経済人、経済学者、新聞記者の名前を挙げて論破。「MMTは、供給力という上限があるので、財政赤字は無尽蔵には膨らませられないと言っている」と説明している。

   アメリカでは主流派経済学者のジャネット・イエレンがバイデン政権の財務長官となり、積極財政に乗り出した。積極財政によって経済が成長することで、財政はかえって健全化すると主張しているそうだ。それが「今や、アメリカの主流派経済学におけるコンセンサス」だとも。

   日本はいま、「コストプッシュ・インフレ」と「デフレ」の両方が起きている、と中野氏は見ている。物価は上がっているのに給料は下がっている危険な状況だと、危惧する。

   いま、日本が何をすべきかは明白だ。日本の長期停滞は、財政政策をはじめとする経済政策の間違いが引き起こしたものだと断じ、「大多数の日本人による長年の『思考停止』こそが、日本経済を衰退させてきたということになります」と結んでいる。

   読んでいて、財務省や経済学者、メディアの説明を無批判に受け入れていた自分が恥ずかしくなった。本稿では矢野氏以外の固有名詞は省いたが、実にたくさんの学者らの主張を批判している。まさに【大論争編】にふさわしい内容だ。

(渡辺淳悦)

「楽しく読むだけでアタマがキレッキレになる 奇跡の経済教室 【大論争編】」
中野剛志著
KKベストセラーズ
1870円(税込)

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