あらためて、MMT(現代貨幣理論)とは何か
次に、「信用創造」をテーマに論じている。いま話題のMMT(現代貨幣理論)について、以下のように説明している。
「まず、政府は通貨(円、ドル、ポンドなど)を法律によって決める。
次に、国民に対して、その通貨の単位で計算された納税義務を課す。
そして、政府は、通貨を発行し、租税の支払い手段として定める。
これにより、通貨には、納税義務の解消手段という『価値』が生じる」
ようするに、人々がお札という単なる紙切れに通貨としての価値を見出すのは、その紙切れで税金が払えるからだということだ。
この説明は、MMTの論者が思いついたわけではなく、ドイツの経済学者ゲオルク・F・クナップが1905年に示し、ケインズも同意し、先に述べたラーナーもクナップの貨幣論をもとに、「機能的財政」の考え方を導き出したという。
だから、MMTは「こうした先人たちの業績の上に成り立った強固な理論」だと擁護する。
さらに、MMTの理論に基づき、「税は、財源確保の手段としては必要ではないが、国民経済を調整する手段としては不可欠」「政府支出は同額の民間貯蓄を増やしている」と展開している。
MMTについて「財政赤字を無尽蔵に膨らませても大丈夫だという主張」だと誤解する人が非常に多い、とこぼしている。具体的に、何人もの経済人、経済学者、新聞記者の名前を挙げて論破。「MMTは、供給力という上限があるので、財政赤字は無尽蔵には膨らませられないと言っている」と説明している。
アメリカでは主流派経済学者のジャネット・イエレンがバイデン政権の財務長官となり、積極財政に乗り出した。積極財政によって経済が成長することで、財政はかえって健全化すると主張しているそうだ。それが「今や、アメリカの主流派経済学におけるコンセンサス」だとも。
日本はいま、「コストプッシュ・インフレ」と「デフレ」の両方が起きている、と中野氏は見ている。物価は上がっているのに給料は下がっている危険な状況だと、危惧する。
いま、日本が何をすべきかは明白だ。日本の長期停滞は、財政政策をはじめとする経済政策の間違いが引き起こしたものだと断じ、「大多数の日本人による長年の『思考停止』こそが、日本経済を衰退させてきたということになります」と結んでいる。
読んでいて、財務省や経済学者、メディアの説明を無批判に受け入れていた自分が恥ずかしくなった。本稿では矢野氏以外の固有名詞は省いたが、実にたくさんの学者らの主張を批判している。まさに【大論争編】にふさわしい内容だ。
(渡辺淳悦)
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