資産所得倍増には日銀の低金利政策もネックに
今回の「資産所得倍増プラン」、専門家やエコノミストはどう見ているのだろうか。
ヤフーニュースのヤフコメ欄では、法政大学大学院教授(現代政治分析)の白鳥浩氏はこう指摘した。
「(資産所得倍増プランは)池田内閣の所得倍増計画とは名前は似ているものの、似て非なるものである。所得倍増は国民全体に恩恵を及ぼすことを考えられていたが、岸田氏の『資産所得倍増プラン』は、投資を中心としたものであり、そこには資産所得が増加する可能性もあるが、リスクもある。その恩恵は一部のものにしか及ぶことはないだろう。(中略)もう少し夢のあるプランがあっても良いのかもしれない」
一方で、資産が倍増するまでには「半世紀以上かかる」として、「絵に描いた餅」とのトーンで批判するのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏のリポート「岸田政権の『資産所得倍増計画』と『貯蓄から投資へ』」(5月31日)は、岸田政権が発足時に掲げていた「新しい資本主義」は変質したと指摘する。
「『資産所得倍増計画』も『貯蓄から投資へ』も、ともに株式市場には耳あたりの良い言葉だ。岸田政権が発足時から掲げてきた『新しい資本主義』は、企業が短期的な利益拡大に邁進し、株主の利益を最優先に考える傾向を修正することを目指したものだった」
「このような考えのもとに岸田政権は、金融所得課税見直し、自社株買いのルール設定、『四半期開示』の見直し、などの考えを次々に提示していった。これらは『株式市場を敵に回す岸田政権』との印象を株式市場に広めることになったのである」
岸田首相がこうした姿勢を一変させたのは、5月上旬、英金融街シティでの講演だった。「岸田に投資を」(Invest in Kisihida)とも話したのだは、これは、安倍晋三元首相が海外で投資家に発言した「Buy my Abenomics」(アベノミクスは買いだ」にならったのだろうと、木内氏は推測する。
木内氏は「経済政策が短期的な株式市場の変動の影響を受けることは問題だ」と指摘したうえで、「資産所得倍増計画」の実現は不可能だとみている。
図表1は、1994年度を100とした場合の家計金融資産などの価値の推移を表したグラフだ。
「26年後の2020年度時点で家計金融資産は167.2、雇用者報酬は107.9、家計財産所得は58.4である。(新しい資本主義の初期に掲げた)『所得倍増計画』も近い将来では実現性に乏しい計画だったが、『資産所得倍増計画』はそれに輪をかけて実現性が乏しいのである」
なぜかというと、現在の日銀の金融緩和政策による金利低下のトレンドも大きく影響している。結局、
「より最近の過去10年間での変化に注目すると、雇用者報酬は1.13倍、家計財産所得は1.14倍とほぼ並ぶ。このペースが続いた場合、現在から2倍となるのはそれぞれ57年後、53年後と、実に半世紀以上先となる計算だ。つまり岸田政権の下で『所得倍増計画』『資産所得倍増計画』を実現するのは事実上不可能である」
と断じるのだった。