変化に適応し、変身を遂げた繊維メーカーの現在
ここで「この業界」について振り返ってみる。かつて日本の繊維産業は、日本の高度成長を支えた大きな柱だった。
思えば、沖縄返還交渉と並行して進んだ、繊維製品の対米輸出を巡る「日米繊維交渉」(1969年~1971年)は、世界的な競争力を持ち始めた日本製品の象徴でもあった。しかし、衣料用繊維の競争力保持者は、半世紀を経て中国勢に取って代わられ、「日米繊維交渉」の勢いは見る影もない。
だが、日本の繊維各社は、強化プラスチック用途の複合材、住宅向け断熱材、電子部品材料、航空機の素材などのメーカーとして存在感を示す方向へ――言い換えれば、化学メーカーへと変身を遂げた。なかでも、航空機の軽量化を可能にした東レの炭素繊維は、シェア世界一とまさに勢いに乗っている。
他方、日東紡は今も「肩パッドの材料」のような繊維事業を細々と続けているが、この事業の2022年3月期の売上高は25億円と、全体の3%程度に過ぎない。大手から中堅にいたるまで、日本の繊維メーカーは華麗なる変身を遂げたわけだ。
少し前になるが、大和証券は2022年3月1日付リポートで日東紡の目標株価を4200円から4300円に引き上げ、「スペシャルガラスの成長は再度、加速すると考えられる」と指摘した。
日東紡の株価は割安感があるともみられており、上値を追う展開が続く可能性もありそうだ。(ジャーナリスト 済田経夫)