大手商社7社の2022年3月期連結決算は、ロシアによるウクライナ侵攻のプラス・マイナスの影響が交錯したが、恩恵がマイナスを圧倒し、最終(当期)利益は全7社が過去最高を更新した。
前年、伊藤忠商事に利益首位を譲った三菱商事が2年ぶりにトップを奪い返した。
ウクライナ侵攻の影響による損失はどうだったか?
ロシアによるウクライナ侵攻(2022年2月24日開始)により、一部事業で各社、損失を計上した。減損処理などに加え、投資価値引き下げに伴う純資産の減少額を含め、ロシア関連事業の損失処理は、7社中6社で、計2700億円に達した。
大きいのが、液化天然ガス(LNG)・石油開発事業「サハリン1、2」だ。サハリン2に12.5%出資する三井物産が、LNGなどで純資産の減額806億円、減損損失など209億円、計1015億円を計上。同じく10%出資する三菱商事も、サハリン2などの純資産減額役500億円、減損損失130億円を出した。伊藤忠商事は、サハリン1の評価損などで150億円を計上した。
丸紅は、サハリン事業の投資評価を下げたが、米航空機リース事業のロシアによる機体接収懸念などの影響が大きく、130億円の損失を計上した。住友商事も、関連会社がロシアに航空機をリースしているがロシア国内にとどまっている34機が回収できないリスクを織り込むなど、ロシア関連の損失は計580億円に達した。双日も、自動車販売事業などで30億円の損失を出した。豊田通商はゼロだった。
首位の三菱商事、最終利益は前期比5倍超の9375億円
一方で、資源高が各社の収益を大きく押し上げた。 コロナの感染をいち早く抑えた中国の景気刺激策で鉄鉱石や石炭など金属資源関連の価格が上昇し始め、需要回復に生産や物流の回復が追いつかず、商品全般の価格が上がった。
さらに、22年2月からのウクライナ侵攻で資源・エネルギー、商品価格全般が一段と値上がりしたことで、利益も押し上げられた。商社は鉄鉱石などの権益を押さえており、相場高騰でもうけが膨らむ構造になっている。
三菱商事は、中国の豪州産石炭輸入制限の影響を受け、前の期は厳しかったが、22年3月期は世界的な石炭価格上昇の恩恵を受けた。この期は、原料炭だけで2706億円もの利益を出した。こうした結果、最終利益は前期比約5.4倍の9375億円と、1兆円目前まで跳ね上がり、首位に返り咲いた。
三井物産も、鉄鉱石や銅の価格上昇などで資源事業の採算が大幅に改善。商品市況の上昇に為替の円安メリットも加えると2350億円の増益要因になった。ヘルスケア分野なども伸びた。これらでサハリンの事業の損失を補ってお釣りがくる結果になり、22年3月期の最終利益は前期の2.7倍の9147億円と、2位を確保した。
前の期に首位に立った伊藤忠商事も最終利益は同2.0倍の8202億円と、好業績だった。だが、三菱、三井の伸びには届かず、3位になった。
伊藤忠は、石炭など資源でも利益を伸ばしたが、売り上げの7割を占める非資源事業の好調が全体を押し上げた。情報・金融部門は、コロナ禍からの経済活動の回復に伴う企業のデジタル化で需要が膨らんだ。
住友商事は、前期に過去最大の赤字計上から一転、石炭、鉄鉱石、銅などの価格上昇が貢献し、最終利益は4636億円と、過去最高を更新した。
エネルギー需要の高まりは続くも、資源高騰は収束か
2023年3月期はどう見込まれているか――。
世界で広がる脱炭素の流れで、近年、原油や天然ガスへの新規投資を抑えられてきたが、ウクライナ侵攻で「ロシア依存脱却」が緊急課題となっている。
エネルギー需要の高まりは、商社にとって朗報だ。多方、資源高騰は収まっていく方向とみられるが、ウクライナの戦況、ロシアへの制裁の動向など不確定要素が多く、各社は22年3月期のような追い風は弱まるとして、23年3月期は減益を見込む。
それでも、三菱商事が8500億円、三井物産は8000億円、伊藤忠は7000億円など、高水準の最終利益を見込んでおり、商社の好業績は当面、続きそうだ。(ジャーナリスト 済田経夫)