「デフォルト」認定には長い時間がかかる
図1は、ロシアの通貨ルーブル相場(対ドル)の推移だが、ウクライナ侵攻直後の3月上旬、欧米諸国から経済制裁にあい、暴落したものの、その後は持ち直している。5月以降は、侵攻以前より高い水準を維持するありさまだ。これは、西濵氏によると、ロシア政府と中央銀行が連携した3つの素早い対応によるものだ。
(1)政府は資金流出の阻止に向け、外国人投資家のロシア資産売却を禁止する資本規制や、強制的な外貨の売却措置を導入したほか、中央銀行政策金利を大幅に引き上げる金融引き締めに動いた(9.5%⇒20.0%)。
(2)デフォルト回避とルーブルへの実需喚起に向けて、すべての貿易決済をルーブル建で行うことを求める動きをみせた。こうした「特殊な環境」を醸成したことが追い風になり、ルーブル相場は侵攻前の水準を回復。
(3)その後、資本規制に伴い外国人投資家による「ロシア売り」が禁止されたことも重なり、足下のルーブル相場の底入れが進んだ。ルーブル相場の混乱が一段落すると、中央銀行は一転して4月初旬に緊急利下げに動くなど、金融緩和による景気下支えに舵を切る動きをみせている。
ただ、図2を見るとわかるように、経済制裁強化を受けた物資不足により、インフレが加速する状況が続いているのは確かだ。しかし、「足下では週次ベースのインフレ率がウクライナ侵攻後初めてわずかな下落に転じるなど、物価上昇に一服感がみられる」というから、危機的な状況には至っていないようだ。
ところで、「デフォルト」はどうなったのか。「デフォルト確定までに長い時間がかかる」ことも、ロシアには有利に働いている。その理由はこうだ。
「ロシア政府は対外債務の支払いをあくまでルーブル建で行う意思を示しており、債権国自ら返済不能を宣言する可能性は皆無とみられるほか、欧米諸国などの経済制裁の一環として、主要格付機関3社はいずれもロシア関連の格付を撤回していることを勘案すれば、格付機関がデフォルト認定を行う可能性も低い」
ということは、国際的な業界団体である「国際スワップ・デリバティブ協会(ISDA)」が、「デフォルト相当」と判断するほかはない。
しかし、ロシア政府がルーブル建での支払い意思を示している以上、仮にISDAが「デフォルト相当」と判断しても、ロシア政府が米国政府に対して支払い意思妨害を理由に法的手段に訴えるのは必至だ。
となると、法廷闘争に持ち込まれ、「最終的なデフォルト確定には長期間かかることは避けられそうにない」というわけだ。