30歳のあなたに1億円が舞い込んできたら...真剣に考えたことある? いくら運用にまわす【その1】(小田切尚登)

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   明治大学の経営大学院(MBAコース)で金融論を担当している。その中で数年来、次の問いを学生に出している。

「親戚の金持ちのおじさんが亡くなり、30歳のあなたに1億円の財産が舞い込んできました。これをどのように運用していきますか? その内訳をざっくりパーセントで示してください。あなたには借金がなく、定収入もあるので、この1億円には手を付ける必要がない、という前提で回答してください。」

   この問いの主眼は何といっても、学生たちに資金運用について一度、自分のこととして真剣に考えてもらいたいというところにある。

   誰でも、長い人生の中で大なり小なり運用をしていく必要性が必ず出てくる。実践でやってみるのが一番なわけであるが、現実に「仮想通貨に投資してウン百万円損してしまいました」みたいなことになってからでは遅い。まずはシミュレーションで試してもらって勘どころをつかんでもらおう、という趣旨である。

   夜間の経営大学院にはいろんな学生が通ってくる。企業に勤める人が最も多いが、留学生、税理士志望の人、親の事業を引き継ぐ人、起業した人・起業しようと考えている人......等々がいる。貴重な時間とカネを費やして学ぼうとする人ばかりなので、みんな真剣で前向きだ。その熱意には教師の私も頭が下がる思いだ。

   学生の中には金融機関に勤務しているような人が一定数いるが、多くの学生は金融の知識がほぼゼロという状態で受講してくる。そういう多様な学生全員に満足してもらえるためには、どういう内容にすればよいのだろうか。いろいろと試行錯誤を繰り返して生まれたのが1億円の投資についての設問である。

  • 30歳のあなたに1億円が舞い込んできたら……
    30歳のあなたに1億円が舞い込んできたら……
  • 30歳のあなたに1億円が舞い込んできたら……

半数の人が「株式」と答えた

   さて、この1億円運用の問題について、今期の授業のすべての受講生二十数人に回答してもらったところ、全体の平均は以下のような結果となった。

株式     52%
債券と預金  25%
不動産    10%
金などの商品  8%
仮想通貨   5%

   一見すると、まずまず常識的な線にあるように見えるかもしれない。しかし、これはあくまで二十数人の学生の答えの平均である。個々の回答では極端な配分となっている例もあった。たとえば資金の100%なり90%なりを株式投資に回す、との答えがあったし、1億円の80%を使って不動産を購入するという学生もいた。こういうのは典型的な一点集中型の投資スタイルである。

   そこで、投資に関する第一のポイントを授業で話をした。

「十分にリスクを分散させることが大事である」

   「一つのバスケットに卵をたくさん入れて運ばない」という諺がある。落としてしまうと卵がすべて割れてしまうからだ。リスクを分散することでリスクを減らすことは運用の基本中の基本である。分散することで大損を避ける、と言っても良い。

   もちろん、人によってリスク選好は異なるわけで、高いリスクが好みという人もいる。リスクが高いのはダメと言い切るべきではないかもしれない。株式なり仮想通貨(暗号資産)なり不動産なりに資産の大半をつぎ込めば、うまくいけば大儲けができる可能性がある。

「まず守りを固める」ことが鉄則

   しかし、30歳の人はこれから何十年と生きていかないとならない。ギャンブルをして短期間に大きく財産を減らしてしまってはダメージが大きすぎる。大きな賭けをしたら、よほど運が良くない限りは大きく損をしてしまうだろう。そうならないようにするにはどうすべきかという話だ。

   逆に言えば、仮に持っている株価が一時的に上がって、単発で数百万円とかを増やせたとしても、それは人生にとって大きな意味のある話ではなく、単にラッキーであったということに過ぎない。むしろ安易に成功体験を得ると、過度に楽観的になってしまい、後の人生に悪い影響を与えることが多い。ビギナーズ・ラックに良いことはまずない。

   「一発屋」と言われる人がいる。若い時に一度成功するが、その後ずっとうまくいかず年を経ていく人のことだ。本来ならば、短期間であっても成功したら、その時に稼いだカネを元手にして、その後は安定的な生き方をしていく、というところを目標にすべきところだ。しかし現実にはそのカネもすぐに使い果たしてしまい、その後は貧乏に戻るという場合が多いようだ。いずれまた成功するのではないか、という甘い期待を捨てきれないのだ。

   どんな場合でも「まず守りを固める」というのが鉄則である。サッカーでもディフェンスさえ完璧で点を取られなければ、最低でも負けることはない。株や仮想通貨で大儲けする未来ばかりを夢見る人は、かっこよく点を取ることばかり考えて守りをおろそかにする人と同じだ。こういう人には遅かれ早かれ「想定外」の事が起きてしまい、結局は負ける(大損する)ことになるではないか。

   投資の世界では、相場の乱高下などの様々な場面を想定し、どう転んでも大負けしないようなポートフォリオ(資産の組み合わせ)を作ることが最初の目標となる。これを肝に銘じておきたい。

(小田切尚登)

「30歳のあなたに1億円が舞い込んできたら」シリーズは、こちら。
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小田切 尚登(おだぎり・なおと)
小田切 尚登(おだぎり・なおと)
経済アナリスト
東京大学法学部卒業。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバなど大手外資系金融機関4社で勤務した後に独立。現在、明治大学大学院兼任講師(担当は金融論とコミュニケーション)。ハーン銀行(モンゴル)独立取締役。経済誌に定期的に寄稿するほか、CNBCやBloombergTVなどの海外メディアへの出演も多数。音楽スペースのシンフォニー・サロン(門前仲町)を主宰し、ピアニストとしても活躍する。1957年生まれ。
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