毎日働いていくうえで、一番大切なものは何だろうか? 「やっぱりお金!」と答える人も多いだろう。「お金」といえば、よその会社ではどうやって給与を決め、昇進していくのか...他人の財布は何かと気になるもの。
転職のためのジョブマーケット・プラットフォーム「Open Work」を運営するOpen Work働きがい研究所が2022年5月26日に「年齢別年収で読み解く企業の給与レポート」を発表していて、そんな疑問の参考になりそうだ。
これを見ると、昇進の方法にも企業文化があり、「コツコツ昇給型」「ジャンプアップ昇給型」「完全実力主義昇給型」と、主に3つのパターンがあることがわかる。
コツコツとみんな一緒に昇給する日本たばこ、日立、ファイザー
「Open Work」は、社会人の会員ユーザーが自分の勤め先の企業や官庁など職場の情報を投稿する、国内最大規模のクチコミサイト(会員数約450万人、2021年12月時点)だ。「待遇の満足度」「20代成長環境」「人材の長期育成」など8つの項目に0~10点で答えて評価、コメントする仕組みだ。
今回の調査では、1280万件以上蓄積されたクチコミの中から、実際に働く社員の年収データを元に、企業ごとに異なる賃金カーブを25歳から55歳までの5歳刻みで可視化した。そのデータと、収入に関する社員の生々しいクチコミを合わせて、企業の昇給パターンを大きく3つに分類した。著名な企業のリアルな年収事情を年齢と昇給の関係から見ていくと――。
【コツコツ昇給型企業】
年齢・年次が上がるごとに、平均年収もそれに応じて一定の割合で上昇していく傾向が見られる企業だ。代表的例として「日本たばこ産業(JT)」「日立製作所」「ファイザー」をピックアップ。
コツコツ昇給型の企業で働く社員の声からは、「定期昇給」「年功序列」「会社業績に左右される」といったキーワードや特徴が読み取れる。長く在籍するほど給与が上がりやすい、安定型企業とも言えそうだ。
日本たばこ産業(JT)「普通の評価を取っていれば定期昇給があります。(昇給額は)年20~30万円(賞与含め)くらいです。福利厚生が非常に手厚く、かつ所得税の対象外になっており、有価証券報告書に表れませんが、他社に比べて非常によいところだと思います」(経理・男性)
日本たばこ産業(JT)「昇給は前年度の通年評価によるが、平均的な評価であれば、年額15~20万程度、毎年昇給していく。一方で、グレードが上がると、さらに年 額数十万円の昇給が加算される。賞与については、全社業績と部門業績、個人業績から成るが、前年度の個人評価に応じて最大1か月の月給分程度の差が生じる」(人事・企画、男性)
日立製作所「しばらくは年功序列で上がっていくため、同世代との差は開かない。月収に評価にあたる増加分もあるものの、それほど大きくはなく、ボーナスや残業でカバー可能なレベル。ボーナスは評価が一段変わるごとで10万円以上の差がつくため大きい」(開発、男性)」
日立製作所「基本的に年々微増していく感じ。役職がつくまでは、同業他社と比べても平均的な年収であると思う。ボーナスは業績に左右されやすく、評価が良くても会社の業績が悪いと、そちらに引っ張られることもある」(設計、男性)
ファイザー「給与水準は高いと思うし、昇給は毎年ある。手当もしっかりしています。ハイパフォーマーになっても大きなボーナス評価は得られない。半面、ローパフォーマーはボーナスをもらえない」(MR=医薬情報担当者、男性)
ファイザー「業績と評価により、インセンティブの金額が大きく波がある。高い評価を得ても、会社全体の業績が悪いと原資が小さく、もらえる金額も低くなる。一方で、低評価でもグローバルや日本の業績が良いと多くもらえる年もある」(マーケティング、男性)
ある年齢になるとグンと約300万円アップ、三菱商事、野村総合研究所、野村證券
【ジャンプアップ昇給型企業】
ある年齢や一定の年次、あるいは役職を境に、年収がジャンプするように一気に上がる傾向が見られる企業だ。「三菱商事」「野村総合研究所」「野村證券」が代表的企業だ。
各企業の図表を見るとわかるが、三菱商事では25歳から30歳になった段階と35歳から40歳になった段階でそれぞれ平均年収が300万円近くアップする。野村総合研究所でも、25歳から30歳になった段階でプラス350万円近く、野村證券ではプラス300万円近く上がる。
ジャンプアップ昇給型企業で働く社員の声からは、「年収におけるボーナス割合の高さ」「役職がつくと大幅に昇給」「一定の年次以降、同期との差が年収に現れる企業風土」といったキーワードや特徴が読み取れる。ほかにも、年収の高いイメージのある総合商社、シンクタンク、証券会社では似たような昇給傾向が見て取れた。
三菱商事「基本的に6月の成果評価のボーナスが非常に大きい。評価が高ければ、個人評価・組織評価・全社評価の合算で、特に個人評価がよければ、30代後半で1000万円弱可能。基本的に昇格すれば、基本給・ボーナスが大きく上がる。また新入社員は他社とそれほど処遇が変わらないが、2年目に大きくアップ傾向」(海外営業、男性)
三菱商事「入社9~10年まではほぼ皆同じスピードで昇給する。管理職と言われるクラスに上がるのもそのころで、そこからは如実に差がつく。評価は年1回で、夏のボーナスに反映される。入社10年目で、評価給としての夏のボーナスが250万円前後。これは標準ケースで、頑張ればもっと上がるし、評価が低ければもっと下がる」(営業、男性)
野村総合研究所「低い役職の時に基本的に年功序列で、最初の何年間で毎年昇級されます。一方で成果主義の面もありまして、主任になってからStayの人が多くなり、逆に能力(特に管理能力)のある人はどんどん飛び級もできます」(システムエンジニア、男性)
野村総合研究所「7~8年目くらいまで年功序列。早ければ32、33歳から上級専門職(役無し管理職)で年収1400万~1900万円程度。部長級にならないと2000万円は超えない。賞与は役職による」(コンサルタント、男性)
野村證券「同年代の中では非常に高い水準であると思います。入社以降最初の3年はそこまで高くありませんが、4年目以降にぐっと上がります。7年目以降は年収1000万円を超える水準になります。ボーナスも相場に左右されますが、基本的な水準は非常に高いと思います。同期の中でも業績によって数百万円の差が出ます」(営業、男性)
野村證券「3年間の荒波をくぐり抜けた4年目以降に給与が高くなる仕組み。ボーナスは年に1度。1年間の評価が翌年度の5月に反映される。初めはほぼ全員同じスタートラインだが、成績によって評価にだんだん差が出てくる」(営業、女性)
新人もベテランも「成果がすべて」、SAPジャパン、ジブラルタ生命保険、オープンハウス
【完全実力主義昇給型】
最後は、コツコツ型・ジャンプアップ型とは異なり、年齢とか年次とかにはほとんど関係なく、実力と成果に応じて昇給する企業をピックアップする。ヨーロッパ最大級のソフトウェア「SAPジャパン」(本社ドイツ)、米プルデンシャル・ファイナンシャルグループ傘下の「ジブラルタ生命保険」、そして日本の総合不動産「オープンハウス」の3社だ。
各企業の図表を見ると、年齢による年収額の差が少ないことがわかる。また、若手から給与の幅が大きいのも特徴だ。SAPジャパンでは30歳以降は年収額の差が少なくなり、40歳が最も年収が高くなる。オープンハウスはどの年代でも最初から変動幅が少ないが、30歳が最も年収が高くなる。一番勢いのある年齢ということだろうか。
完全実力主義昇給型の企業で働く社員の声には、「年齢ではなくジョブグレード(等級)制度が左右する」「営業成績がすべて」「歩合制・フルコミッション型」といったキーワードや特徴が読み取れる。これは、求人情報などには反映されにくい成果主義・歩合制の給与体系のリアルな実態だ。
SAPジャパン「完全な成果報酬型。相対評価ではなく、絶対評価である。個々人のロールに合わせてKPI(重要業績評価指標)が設定されており、それを達成できているかどうかが重要。正当に評価されていると感じた」(プリセールスエンジニア、男性)
SAPジャパン「グローバルグレードという職階制度により、職務別・グレード別に給与レンジが決まっている。同一グレード内での定期昇給は微々たるものだが、昇進によってまとまって上昇する仕組み。マーケット全体の給与水準が上昇していることから、若手社員には臨時昇給もあったと聞く」(コンサルタント、男性)
ジブラルタ生命保険「入社2年目まではTAP(タップ)という制度によって給料を得られる。入社時に所長と自身で話し合って決めた基準額(自分の場合は月 20万円)を毎月決められた数字をクリア出来ればもらえる。決められた数字よりも多く挙げれば昇給も行われる。決められた数字をクリア出来ない月が続くと、給料が下がる」(営業、男性)
ジブラルタ生命保険「完全実力主義。4か月以上働けば、やったらやっただけもらえる。がんばればすぐに額面で月額60万円も可能。ボーナスも年4回あり、稼ごうと思えばかなり稼げる。契約数で決まり、契約を取れば取るほど評価され、お金をもらえるので達成感がある」(営業・女性)
オープンハウス「給与制度は完全に実力主義になっています。制度上基本給が低く押さえられつつも、それ以上の実力給になっているので、実力がある人はどんどん給与が高くなっていきます。出世も早いです。出世すればさらに手当などもつくようになるので、高い報酬が期待できると思います」(営業、男性)
オープンハウス「給与制度は完全な成果主義。成果が出ればその分だけ年収も上がっていく傾向にあると思う。特に、営業部門やマーケティング部門は自分の頑張り次第で年収を高めることができる。成果を出せない限り給与はなかなか上がっていかない。年功序列の会社ではないので、若いうちからお金が欲しいという人にもおすすめの職場だと思う」(営業、女性)
......とまあ、それぞれの昇給パターンにも一長一短があるし、自分に合う、合わないという面もあるだろう。あなたの会社はどのタイプ?
データ集計は、Open Workに投稿された社員・元社員による会社評価レポートの「年収・給与」より参照・抜粋した。「年齢別年収」は、会社評価レポートで回答された年収データから、Open Work独自のアルゴリズムによって統計的に算出した。個人の年収データやそれらの平均値ではなく、ある年齢および前後の年齢のデータから推定している。
(福田和郎)