自民党内の対立は財務省にとって悩みの種
背景には、財政に対する見方の違いがある。
安倍氏をはじめとする積極財政派は「政府はまだまだ借金ができる。心配はいらない」として財政再建は当面、必要はないと主張する。安倍元首相の「日銀は政府の子会社」発言(J-CASTニュース 会社ウォッチ2022年05月22日付「『日銀は政府の子会社』...安倍氏発言は本音か?焦りの表れか?」参照)も、積極財政路線の延長上のものだ。
これに対し、財政再建派は「日本の財政は既に危機的な水準だ」とみる。さらに財政を悪化させる財政積極派の主張はとても受け入れられない、というわけだ。
政府の腰も定まらない。
松野博一官房長官は5月19日の記者会見で、政府目標について「目標年度の変更が求められる状況にはない。方針に変わりはない」と強調してみせた。
しかし、岸田首相は物価対策などに赤字国債で大盤振る舞いするほか、来日したバイデン米大統領に防衛費の積み増しを約束するなど、財源の確保策を示さずに「ばらまき」に邁進する。財政をどうしたいのか、岸田政権としての明確な方向は見えてこない。
この状況に危機感を強めるのが財務省だ。永田町をまわり、財政再建をあおろうと必死だが、参院選が近づく中、財政拡大圧力をかわすのは難しい状況だ。
20日未明。衝撃的なニュースが永田町・霞が関を駆け巡った。財務省の小野平八郎・総括審議官(その後、官房付に更迭)が、東急田園都市線の車内で酒に酔って他の乗客を殴ったなどとして警視庁玉川署に逮捕されたのだ。
総括審議官は省トップの事務次官への登竜門と目される出世コース。永田町の政治工作もこなす要職だ。
将来を約束された財務官僚の逮捕の一報に、霞が関では「自民党内の対立は財務省にとって悩みの種。小野氏も対策がうまくいかず、深酒に走ったのではないか」という同情論まで飛び出す始末だ。
財政政策の方向感は定まらず、自民党内の対立も続きそうだ。(ジャーナリスト 白井俊郎)