新型コロナウイルスの感染拡大により、政府の緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置が発令されていた時には大幅に減少していた鉄道係員に対する暴力行為が、再び増加している。
さきごろ、キャリア官僚が乗客とのトラブルから現行犯逮捕されたことも話題を呼んだが、新型コロナの蔓延防止等重点措置が解除され、日常生活が戻り始めるとともに、暴力行為も逆戻りしている。
暴力行為の発生、多い時間帯は?
日本民営鉄道協会が2022年5月19日に発表した「鉄道係員に対する暴力行為の件数・発生状況について(2021年度/大手民鉄16社)」によると、2021年度に生した駅員や乗務員等の鉄道係員に対する暴力行為の発生件数は126件で、前年度に比べて22件(21.2%)も増加した。
鉄道係員に対する暴力行為は2012年度に231件のピークを付けた後、緩やかながら減少傾向を辿っていた。新型コロナの感染拡大防止の観点から、外出自粛などにより人々の行動が制限されると、2020年度には暴力行為の件数は前年度比で78件(42.9%)と大幅に減少した。だが、2021年度には再び増加に転じてしまった=表1。
心配なのは、2021年度の発生件数を上期、下期で見た場合、上期は54件と2020年度と同数だったのに対して、緊急事態宣言が解除されて蔓延防止等重点措置に切り替わり、人々の行動制限が緩んだ下期には72件だったことだろう。この数字は、2020年度の下期の50件から22件も増加し、新型コロナの感染拡大前の水準に近づいた。
鉄道係員に対する暴力行為が発生する状況としては、時間帯別の発生件数を見ると朝方の始発電車から午前9時までの時間帯では、2021年度は2020年度を下回っているが、その後のすべての時間帯で2020年度を上回っている。
とくに、日中の午前9時から午後5時までと、深夜の午後10時から終電までの時間帯では、新型コロナ発生以前の2019年度並みの件数が発生している=表2。
暴力行為のきっかけ、明らかに増加しているのが...
主な発生場所としては、ホームが52件で全体の41%を占め、次いで改札の37件(30%)となっており、この傾向は2020年度、2019年度と大きな変化は見られない。
ところが、何をきっかけに発生したかを見ると、2021年度は2020年度、2019年度に比べて「酩酊者に近づいて」が明らかに増加していることがわかる=表3。
これは、新型コロナの感染防止対策として、宴会の自粛など飲食店での飲酒を制限されたことの反動なのだろうか。
ただ、暴力行為加害者の飲酒状況では、「飲酒あり」が2019年度は124件(68%)、2020年度も71件(68%)、2021年度も84件(67%)と、ほぼ同じ比率を占めている。したがって、飲酒による酩酊が暴力行為発生に大きく関わっていることがわかる。冒頭のキャリア官僚のケースでも、やはり酩酊状態だった。
新型コロナの感染防止から制限されていた行動が解除され、徐々に新型コロナ前の生活を取り戻し始めていることは歓迎すべきことだが、せっかく減少した暴力行為が再び、新型コロナ前の状況を取り戻すことは憂慮すべきことだ。
新型コロナは私たちの生活にさまざまな悪影響をもたらしたが、一方では暴力行為の減少という思わぬ副産物を生み出だした。こうした好影響だけは、新型コロナ前に戻らないことを強く願いたい。