源頼朝が編み出した「エンゲージメント強化策」
マーケティングの章では、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の主人公である源頼朝が編み出した「エンゲージメント強化策」を取り上げている。
武力によって前政権を倒しても、安定させるのは難しい。十分な報酬がメンバーに与えられないと、不満が募るからだ。頼朝といえば、有名な「御恩と奉公」というシステムをつくり上げた。
現代の企業では、社員を会社につなぎ留め、高いモチベーションで仕事をしてもらうために「エンゲージメント(深い結びつき、愛着)」が大切である。「御恩と奉公」もエンゲージメントを狙ったもので、非常にモダンな発想だったという。この章で示したプレスリリースも、この制度をわかりやすく説明したものだった。
ちなみに、鎌倉幕府はその後、御家人は自身の領土が増えなくて、不満を持つに至る。「元寇」では多くの犠牲を払ったにもかかわらず、元軍を打ち払った後も何のメリットがなく、求心力を失っていくのだった......。
現代の企業では「社内広報」が大事だという。SDGsなど社会的意義のある活動を自社が行っていることを社内広報によって実感してもらい、エンゲージメントを高めている。無限にインセンティブが増え続けなくても、社員のエンゲージメントを維持できるメリットがある。
監修に当たった金谷さんは「日本の歴史はプレスリリースの歴史である」と書いている。「和」がなければ成立しないのが日本の社会であり、それを周知させ、納得させるのが広報活動そのものだからだ。
本書には、「聖徳太子をメディアに売り込む最高の広報」「坂本龍馬が150年後に向けたプレスリリース」など魅力的な項目が並ぶ。広報を学びながら、日本史についても新たな知見を得られるだろう。
(渡辺淳悦)
「もし幕末に広報がいたら」
鈴木正義著、金谷俊一郎監修
日経BP
1870円(税込)