「同じ課の同僚にメールで連絡し合うのは、そんなに失礼?」という女性の投稿が炎上している。
女性はメールで連絡したほうが、効率的で間違いがないと信じてきたが、同僚の1人が「メールを送られると、自分たちはこの程度の関係なのかと、いい気持ちがしない」と言い出した。
そこで課内では「メールではなく、顔を合わせたコミュニケーションを心がけ、メールを送った場合はひと声かける」というルールが決まった。
女性は「バカバカしい!」と怒りを抑えきれない。この投稿に対し、「これだから日本はIT後進国と言われる」「いや、仲間同士の対話は大切」と、賛否大激論だ。専門家の裁定は?
「送ったメールすべてに声がけするのはナンセンス」
<同じ課なのにメールで連絡」...これは失礼?普通? 女性の投稿に「効率の問題」「対話は必要」賛否激論 専門家の裁定は?(1)>および<同じ課なのにメールで連絡」...これは失礼?普通? 女性の投稿に「効率の問題」「対話は必要」賛否激論 専門家の裁定は?(2)>の続きです。
――相手の価値観や思考パターンを考えよう、ということですね。また、多くの人がメール派と対話派の折衷案として「メールはオッケーだが、声がけは必要だ」と提案しています。「メール送ったから読んでね」と声をかければ、また新たなコミュニケーションになるとも指摘していますが。
川上敬太郎さん「そうでしょうか。仕事の生産性を考えると、送ったメールすべてに声がけするのはナンセンスです。それであれば、最初から直接話したほうが、メールを送る工数分を削減できます。ただ、日々たくさんのメールが送られてくる中で見落としが出ないよう、急ぎや重要度の高いものについては、声がけするなど補足したほうが、大きなリスクを防ぐ手立てにはなります。
メールを送った後に、あまり頻繁に確認の声がけをしても煩わしく、無暗に相手の時間を奪うことになりかねません。必要に応じてケースバイケースで判断すべきことだと思います」
「上司も部下と対話かメールかは、ケースバイケース」
――ただ、心や情緒を大事にしたい人々からは、「職場はオンラインショップではない。隣にいる相手にメールするなんて、シュール」という辛らつな意見も年配者を中心に多く寄せられました。
川上さん「ほどよいコミュニケーションの取り方は、当事者間の関係性やシチュエーションで異なります。たとえば、質問した側が回答を貰う際に『メールは苦手なので直接話しかけて欲しい』と思ったとしても、回答する側が忙しい中で時間をつくってメールを返してくれるのであれば、質問した側が回答者の都合に合わせるべきです。
メールが苦手な上司に連絡をする場合は、部下側が気を利かせて、極力対面や電話の手法を用いたほうがよいでしょう。隣の席にいる同僚に連絡する際にも、同僚が忙しそうなら、声がけして手を止めさせるよりも、メールを送っておいたほうが親切かもしれません。
一方、対面で話すことへのこだわりが、生産性を上げられない原因になることもあります。メールが苦手だからと、メールで確認すれば済むことをわざわざ上司が部下に対面で報告させたりするようでは、時間を浪費させてしまいます。
時代の変化と共に、ツールの使い方を覚えることも必要なはずです。コミュニケーション手法が多様化する中で、効率性と心や情緒などのバランスを考慮しながら、最適な方法をケースバイケースで選択する必要があるのだと思います」
――ということは、上司の立場として「良い話は2割増し、悪い話は2割引だから、直接話して部下の表情をみる」という人もいましたが、必ずしも対話にこだわる必要はない、ということですか。
川上さん「そのとおりです。経営者や管理職など、何らかの判断を委ねられている立場の人が必要とするのは判断材料となる『事実』。2割増しの情報も2割引の情報も不要で、メールでも対面でも、大切なことはありのままの『事実』を把握できるかどうかです。
直接話さないと確認できない場合もあれば、メールの報告で十分な場合もあると思います。そこには、部下のタイプや確認したい情報の内容、裏付けとなる他資料の有無、上司自身の予備知識など、さまざまな要素が影響してきます。メールだけでよいのか、直接話すべきなのかは、それらの要素を総合的に勘案したうえで、ケースバイケースになってくるのではないでしょうか。
外資系企業では、電話でやり取りするという意見もありましたが、人それぞれやりやすい方法があるはずです。また、仕事の重要度によっても変わってきます。たとえば、億単位の大きなお金が動く案件についての相談事項であれば、メール内容を踏まえたうえで直接電話でも話し確認を取る、ということも必要かもしれません。一方、懇親会の会場が決まりました、というメール連絡に対して、イチイチ電話で確認をとる必要はないはずです」
「世の中の大きな流れはオンラインツール活用に」
――たしかにそうですね。川上さんなら、ズバリ投稿者にどうアドバイスしますか。
川上さん「投稿者さんが間違っているとは思いませんが、心地よいコミュニケーションの取り方は人それぞれ異なるのも事実です。職場のルールには合わせる必要があります。『郷に入れば郷に従う』という柔軟性も必要なはずです。
ただ、ルールを理不尽だと感じれば感じるほど、投稿者さんにとってはストレスになると思います。もし、職場ルールが我慢ならないものであれば、職場側に意見を述べて改善を申し入れるか、ストレスに耐え切れずにつぶれてしまう前に職場を移ることも視野に入れてよいのではないでしょうか」
――川上さんにとって、一番望ましい職場内メール&コミュニケーションのあり方はどんなものでしょうか。
川上さん「先ほども触れたように、世の中の大きな流れは手軽にすばやく意思を伝える方向に進んでおり、コミュニケーション手段の主流は、対面からメールやチャットなどに移行していると感じます。
その流れを視野に入れると、十分なコミュニケーションには対面が一番という考え方に固執するより、オンラインツールを用いて十分なコミュニケーションが取れるスキルを身に着け、オンラインツールを無暗に否定しない文化を職場に醸成することがより重要になってきます。
コロナ禍を機にテレワークが一気に身近な存在となり、勤務形態の一つとして市民権を得ました。出社一択の時代は終わりを告げました。対面ありきのコミュニケーションを社員に求めるスタンスは、日増しに時代にそぐわなくなっていくように思います。
それとともに、メールは失礼だとか、ないがしろにされている、といった感覚も薄まっていくでしょう。私たちは今を生きています。今という過渡期に適応しつつ、拙速に何が正解かを決めつけるのではなく、時代の大きな流れを横目に見ながら、より適したコミュニケーションのあり方を模索していけばよいと思います」
(福田和郎)