コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻によって世界の食品流通網が混乱するなか、「食料安全保障」への関心が広がっている。
日本は食料の多くを輸入に頼っており、今後の調達に不安が出ているからだ。自民党は2022年3月、この問題を議論する新たな委員会を設置した。ただ、食料自給率の向上に有効な対策が出るかなど、課題は多い。
食料輸出国は「規制」で囲い込み
ここ数年の食料をめぐる世界の動きは、従来の日本の常識を覆すものだ。コロナ禍の影響でロシアやベトナムなど19か国が食品や農産物の一時的な輸出規制を実施したといい、緊急時には輸出国が食料を囲い込んでしまう現実があらわになった。
さらに、ロシアのウクライナ侵攻を受け、小麦などの穀物価格が世界的に高騰している。ロシアとウクライナは小麦など穀物の主要産地であり、ロシアが国民の食を守るため小麦などを禁輸したり、ウクライナの物流拠点が破壊されたりしているからだ。
中国による台湾侵攻への懸念もあり、台湾有事ともなれば、日本の食料輸入に深刻な支障が出かねないと、多くの関係者は見ている。
こうしたなか、自民党は食料調達に今後、深刻な影響が出る恐れもあるとして、「食料安全保障に関する検討委員会」の初会合を3月に開いた。これまでの食料安全保障政策を検証し、必要な取り組みなどを検討する予定だ。早ければ5月中にも中間提言をまとめて政府に示したい意向とされている。
ただ、日本の対応はそもそも遅いという批判は強い。世界ではこの10年ほどの間に、食料安全保障を強化する動きが広がっている。欧州連合(EU)は2013年に食料安全保障を農政改革の最重要課題と規定し、域内での農業政策を強化してきた。スイスでは17年に憲法を改正して食料安全保障の条項を新たに追加したという。
後手後手!? 日本の食糧危機対策
こうした動きを促した大きなきっかけは2008年に起きた世界的な食料危機だ。この時期、米国がバイオ燃料に力を入れ、原料となるトウモロコシの需要が膨らんだほか、中国などの経済成長の加速で、食の需要が世界的に急拡大した。この結果、多くの途上国では飢餓が生じ、これ以降、世界の穀物価格が高止まりしているといわれている。
各国が危機感を抱き、域内の農業振興に力を入れているのに対し、日本ではこれまで「情報収集ぐらいの取り組みしか強化されてこなかった」(農業関係者)。実際、2020年度の日本の食料自給率はカロリーベースで37%と過去最低水準に落ち込んだ。食料自給率の向上のための効果的な対策がとられているわけでもなく、30年度に45%に引き上げるという政府目標は空疎に見える。
一方で中国やロシアでは米国依存からの脱却のため、国産の食料を増やす狙いで農業振興が強化されている。今後は東西冷戦時代のように世界のブロック化が進む可能性もあり、日本にとっての食料調達はますます厳しくなるかもしれない。
日本の食料・農業関係者の中には「食料は輸入すればいいという意識が国全体に浸透していることが大問題」という声も強い。食料安全保障の議論を進めるには、差し迫った課題であるという国民意識の高まりこそ不可欠ともいえそうだ。(ジャーナリスト 白井俊郎)