第2の「知床事故」ならなければいいが 全国観光船の7割「赤字経営」「零細企業」の衝撃

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   北海道・知床半島沖で観光船が沈没した事故では、運航会社の呆れるほどいい加減な経営体質が次々と明るみに出ている。

   日本全国にある同じような観光船の安全対策が心配になるが、東京商工リサーチが2022年5月20日に発表した「全国の旅客船事業者調査」によると、なんと約7割の事業者が赤字経営に陥っており、かつ約7割が中小・零細業者だという。

   国土交通省は事業者に対して、今後徹底した安全管理を求めていくとしているが、大丈夫なのだろうか。

  • 知床半島カシュニの滝の前を通る観光遊覧船
    知床半島カシュニの滝の前を通る観光遊覧船
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経営体力がない中小・零細業者が約7割

   東京商工リサーチは、全国に95社ある沿海や港湾の「旅客船事業者」(湖や河川は省く)を調査したが、その売上高合計は、コロナ前の2019年は1541億9200万円だった。しかし、コロナ禍で人流が抑制され、観光客が減少した2020年は1418億3800万円(前期比8.0%減)、2021年は1237億7800万円(同12.7%減)と大きく落ち込んだ=図表1参照

(図表1)旅客船事業者95社の業績(東京商工リサーチの調査)
(図表1)旅客船事業者95社の業績(東京商工リサーチの調査)

   このため、95社の純利益の合計も2019年が26億900万円の黒字だったのに対して、2020年は29億5800万円の赤字に転落。さらに、2021年は101億5600万円と赤字が大幅に膨らんだ。

   その結果、赤字の事業者は、コロナ前の2019年は24社(全体の25.2%)にとどまっていたが、コロナ禍が全国に広がった2020年は48社(同50.5%)と半数近くに増えた。さらに2021年には、65社(同68.4%)と約7割が赤字に転落した=図表2参照

(図表2)旅客船事業者95社の損益別(東京商工リサーチの調査)
(図表2)旅客船事業者95社の損益別(東京商工リサーチの調査)

   そのうえ、事業者に経営体力がない中小・零細業者が多いことが事態をさらに深刻にしている。

   95社の売上高をみると、2021年は、最も多いのは売上高1億円未満の47社(49.4%)で、1~5億円未満が19社(同20.0%)で続く。100億円以上は2社(同2.1%)にとどまる。つまり、売上高5億円未満が約7割(同69.4%)を占め、大半が中小・零細事業者であることがわかる=図表3参照

(図表3)旅客船事業者95社の売上高別(東京商工リサーチの調査)
(図表3)旅客船事業者95社の売上高別(東京商工リサーチの調査)

   資本金別にみても、資本金1億円以上は17社(同17.8%)で、1億円未満が76社(同80.0%)と、8割を占めた。従業員数別でも、50人未満が67社(同70.5%)と7割が中小・零細事業者で、100人以上は11社(同11.5%)だけだった。

離島を結ぶ厳しい経営環境にコロナ禍の追い討ち

港から出るフェリー船
港から出るフェリー船

   東京商工リサーチは、佐渡汽船(新潟県佐渡市)がコロナ禍のなかで債務超過に陥り、今年(2022年)5月6日に東証スタンダードの上場を廃止したと紹介している。

   J-CASTニュース会社ウォッチ編集部の取材によると、佐渡汽船は長年、佐渡の島民にとって観光の柱だった。佐渡空港の運航が休止している現在、新潟県側本土とつなぐ唯一の交通手段でもある。しかし、債務超過額が約30億円に膨らみ、公共交通運営会社「みちのりホールディングス」(東京都千代田区)の傘下に入り、今年3月に私的整理で事業再生計画を成立させ、再生に動き出した。

   佐渡汽船の場合は必ずしも、新型コロナや原油高だけが原因ではない。佐渡の過疎化による人口減少が大きな打撃になっているのだ。

   だから、東京商工リサーチでは、佐渡汽船のように、離島を結ぶ旅客船事業者の厳しい環境に新型コロナの感染拡大が襲いかかり、急激に業績が悪化した旅客船事業者は多いとして、こう訴えている。

「国土交通省は、(中略)全国の小型旅客船事業者に対し、安全管理規程に定められた運航基準の遵守を指導している。ただ、今回の(知床の遊覧船)事故によるイメージダウンで売上が落ち込む旅客船事業者が増える事態も想定される」
「景勝地の船舶遊覧が観光客を呼び、宿泊、飲食、土産物などへの観光消費が地域経済の柱になっている観光地もある。旅客船事業者は設備維持だけでなく、従業員への安全教育も欠かせない。安易なコスト削減が安全を脅かすことがあってはならない。資金繰りが悪化した事業者の安全対策への支援も真剣に検討すべきだろう」
「旅客船事業者は中小・零細規模が大半を占めるだけに安全対策を事業者任せにせず、国や自治体など行政からの支援も必要だろう」

   調査は主な業種が「沿海旅客海運業」「港湾旅客海運業」の企業を「旅客船事業者」と定義、2021年、2020年、2019年の3期で売上高、利益が比較可能な95社を対象とした。あくまで海運が対象で、川下り船や屋形船など川や湖の水運業者は除外した。

観光立国を急いだ果ての歪みが浮きぼり...

クルーザー船の操縦席
クルーザー船の操縦席

   この調査について、ヤフーニュースのヤフコメ欄ではさまざまな意見が相次いだ。

   たとえば、観光ビジネスが専門の淑徳大学経営学部観光経営学科学部長・教授の千葉千枝子氏は、「知床の観光船沈没事故は、我が国が観光立国を急いだ果ての歪みや盲点を浮かび上がらせています」と指摘したうえで、今回の事故を機に、「監査体制を強化し船舶免許の取得基準や更新のための講習等を厳格化しただけでは対策は十分とはいえず、安全管理のための整備にかかる補助を徹底して国が行うべきと考えます」と述べている。

   ほかにもこんな意見が寄せられた。

「命を預けるのが赤字企業って怖いですね。会社を維持するのに精一杯で、安全対策にまで手が回るのだろうか。最も大事なところで手を抜かれたり、疎かにされたりしたら、遊覧どころではないのではと思います」
「遊覧船が好きで、これまで時々乗ってきたけど、漁師や遊漁船のサイドビジネスって感じのものも多々あった。まともに説明や案内もせず、とりあえず乗せちゃって儲かるときに儲けとけって感じだった。こっちも、そういう『日本的ではない(まるで発展途上国のような)観光コンテンツ』だと思って違う意味で楽しんできた部分もあるけど、知床みたいなことになるのは勘弁だな」
「航空会社はあれだけの資本がなければ許されないのに、同じように多くの命を乗せて運航する船に小規模の事業者が多すぎるのが問題。整備や安全対策、不景気にも耐えられる資本に任せるべきだ。人の命を軽んじてまで小規模事業者に参入させる必要はまったくない業種だろう」

「災害時の待機船に使ってはいかが」

知床半島の観光名物ヒグマ
知床半島の観光名物ヒグマ

   一方で、自治体の支援や、政府のスピーディーな観光振興を求める声が少なくなかった。

「離島を結ぶ船も同じ。燃料費の値段が上がった。乗船客が少ない。観光客の減少。中には大きな橋が出来たためもある。災害時や病人の時はタクシー代わりもある。行政が補助をするしかない。(中略)ボランティアの限界」
「島国日本で各地の島を結ぶ船が生活に欠かせない人たちも多い中で、採算との両立は燃油や人件費なんかの値上げなどもあり、自治体とかの支援なしでは厳しそうに思う」
「疲弊した観光業を救うためにも海外観光客をワクチン証明などで受け入れて、どんどんお金を落としてもらうべきです。世界は先へ先へと進んでいる。オーストラリアは、(中略)大規模商談会を開催して観光客受け入れに躍起になっている。岸田さんは動きが鈍すぎる。もっとスピーディーに動くべきです」

   そんななか、

「日本って海に囲まれているから災害対策滞在型の船を何隻かもっていても不思議じゃないと思う。通常は客船として使い、いざとなったら災害のために使われる船があったら災害時の待機船としては最強だと思うのですが」

という提案が目を引いた。

(福田和郎)

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