低所得層や高齢者層への打撃は大きく...
食料品とエネルギーという、まさに「生活必需品」が上がっているわけだから、低所得層や高齢者層の打撃が大きく、人々はどんどん貧しくなると警鐘を鳴らすのは、野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミスト木内登英氏だ。
木内氏のリポート「2%を超えた物価上昇は日本経済に有害」(5月20日付)の中では、原油価格がさらに上昇するとともに、円安が1ドル=140円台にまで進むと、今年末時点での消費者物価指数はいよいよ「プラス3.1%」にまで達する恐れがある、と指摘する。そうなると、どうなるのか。
「3月時点で、1人当たり賃金上昇率から消費者物価上昇率を引いた実質賃金上昇率は前年比でマイナス0.3%、賞与、残業代などを除いた『きまって支給する給与』で見ると同マイナス0.8%である。賃金上昇が物価上昇に追い付かずに購買力が低下し、消費者はどんどん貧しくなっていっているのである」
しかも、経済学の原則でいうと、普通、物価が上昇すると賃金も上昇するものだが、木内氏は「日本経済の実力に照らして物価上昇率は高すぎる状況だ」という。そして、賃金上昇は期待できないため、日本銀行にこう注文するのだった。
「この状態が続けば、消費者の物価上昇率見通しはさらに上振れ、個人消費はさらに悪化するだろう。こうした状況の下では、金融政策を通じて、さらなる物価上昇を食い止め、個人の物価上昇率見通しが一段と高まることを防ぐ、というメッセージを中央銀行が送ることが求められる」
「米国で行われているような急速な金融引き締め策を日本で実施することは現実的ではないが、物価の安定回復に向けた意思を日本銀行が改めて示すことが、経済の安定維持には必要だろう」
「現状のように日本銀行が金融緩和を修正することを強く否定すればするほど、円安進行に後押しされる形で個人の物価上昇率見通しは一段と高まり、それが日本経済をより不安定にさせてしまうのではないか」