最近、コロナ禍でひそかに人気急上昇中! 原状回復の必要ナシ「DIY型賃貸住宅」ってなんだ?(中山登志朗)

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   2022年2月下旬からロシアのウクライナ侵攻が始まり、多くの消費財や資材を輸入に依存する日本の消費者物価も、上昇基調で推移しています。

   主に、日米の政策金利の格差拡大に端を発する円安で、輸入品価格の高騰、資材・エネルギー価格の上昇による食料品など消費財全般の価格上昇も発生しています。

   若年層に限らず、生活コスト全般をなるべく抑えよう、という消費抑制の動きは、今後顕在化するものと思われます。

  • 注目集める「DIY型賃貸住宅」を解説(写真はイメージ)
    注目集める「DIY型賃貸住宅」を解説(写真はイメージ)
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コストも抑えられる&自分好みの部屋にできる!

   そんななか、コストも抑えることができて自分好みの部屋にもアレンジできる、というDIY型賃貸住宅が注目され始めています。

   これは、2016年に国交省が「DIY型賃貸借のすすめ」というガイドブックと契約書式例を公表したのですが、

「入居者が自らリフォームして、自由度の高い賃貸生活を送ることができる&原状回復せずにそのまま貸せる&借りられる」

という斬新なコンセプトで、公表当時は面白がられ、注目されました。しかし、以降はそれほど注目されることもなく、6年ほどの年月が経過しました。

   ところが、です。2020年以降、コロナ禍が全国的に拡大したことにより、このDIY型賃貸住宅がにわかに注目されるようになったのです。

   なぜなら、築年が経過していて、リフォーム・コストの負担が重いと感じる大家さんにとっては、現状を打開する解決策の一案となります。

   一方では、なるべく安価に住みたい、テレワークでオンもオフも自宅で過ごす時間が長くなったから自分好みにアレンジして快適に住みたい、というユーザーにもぴったりだからです。

   以下、簡単にその概要(通常の賃貸物件との違い)とメリットを解説していきましょう。

原状回復義務、退去時の費用精算の有無を取り決め

◆ポイント1:「増改築等の申請書兼承諾書」

   一般に、「賃貸住宅」とは設備や仕様などを大家さんが管理し、また、修繕を含む維持・管理全般についての義務を負うことで、ユーザーから賃料という対価を得る仕組みです。

   これに対して、「DIY型賃貸住宅」は、一定の条件はあるものの、入居者であるユーザーがリフォーム可能な賃貸住宅です。

   この一定の条件というのが、DIYを認める旨の特約付き賃貸借契約で、その特約については別途契約書の作成が推奨されています。

   契約書とは、「増改築等の申請書兼承諾書」および「合意書」などを指します。以下、この2つを説明していきましょう。

   まず、「増改築等の申請書兼承諾書」は、増改築の内容を一覧表にして、それぞれについて所有権の帰属や退去時に撤去するか残置するかを取り決めておく。そして、原状回復義務および退去時の費用精算の有無について、あとでトラブルにならないようにするための基本的な契約書面です。

   たとえば、棚を吊るとか壁紙を張り替える場合は、ユーザーが費用負担(自分でDIYするのも楽しそうですね)する代わりに、原状回復義務を負わず、退去時に棚および壁紙の所有権を放棄する旨を事前に合意しておけば、双方にメリットがあります。

   ただし、大掛かりに手を入れるような場合は、トラブルになる可能性が高まりますから、事前に契約で合意しておく必要があります。

   具体的には、大家さんが賃貸管理などを一任する代わりに、リフォーム費用をサブリース業者に負担してもらう。そして、退去時にユーザー負担分について精算し、その所有権を放棄するといった方法が考えられます。

トラブル回避のため、事前に大家さんとの確認・合意を

◆ポイント2:「合意書」

   次に、「合意書」は、DIYで手を入れたものに関する所有権の帰属と、契約期間中の管理義務について決めておく書面です。

   DIYした箇所は、契約期間中、ユーザーに所有権を認め、その管理義務もユーザーが負うのが一般的です。そして、退去時については、大家さんと事前にどうするか、取り決めしておくというスタイルです。一般的には、ユーザーが所有権を放棄してDIY部分を残置し、原状回復義務も負わないというパターンが多いようです。

   ポイントは、DIY工事中のトラブルや費用精算をイメージし、大家さんはユーザーが具体的にどのようなDIY工事をするのか事前に把握し、工事中も立会って状況を把握することです。

   また、退去時に原状回復が不要である前提でも、たとえば、DIY箇所が壊れていて使えない・機能しない場合に、補修費用をどちらが負担するのか。そして、精算時の価値をどのように計るのかも、細かいですが、トラブルを避けるためには決めておくべきでしょう。

大家さんにも入居希望者にも魅力的な理由

   このように、大家さんにとっては、契約時および退去時に取り決めるべき項目が増えるという点で、面倒に感じることもあるかもしれません。しかし、交通利便性に劣るとか築年数が経っているなど、借り手がつきにくい物件では、空室対策として、検討する余地があります。DIYを認めることで、長期契約の可能性も高まりますし、退去後の付加価値の向上にも期待できます。

   したがって、リフォーム費用を捻出できず、なかなか借り手がつかない、という物件を保有する大家さんには、有効な手段です。しかも現在、コロナ禍でテレワークやオンライン授業などに態様が変わり、オンもオフも自宅で過ごすことが多くなったユーザーニーズをとらえることにつながりそうです。一方で、ユーザーにとっても、DIYで手をかける代わりに、賃料を抑える可能性が高まります。なによりも、自分仕様という使い勝手のよさや居住満足度にもメリットが見出せます。

   DIY型賃貸住宅は、契約後にも予期しないトラブルが起こる可能性は常にあります。でもそれは、一般の賃貸借契約も同じことです。

   そのため、コロナ禍で空室期間が長引いている&利便性に劣るので借り手がつきにくいなどという賃貸物件については、このDIY型賃貸住宅でユーザーを募集してはいかがでしょうか。

   また、賃貸を希望するユーザーも、居住に関する自由度が高いDIY型賃貸住宅を探してみるのも、一考に値するでしょう。

(中山登志朗)

中山 登志朗(なかやま・としあき)
中山 登志朗(なかやま・としあき)
LIFULL HOME’S総研 副所長・チーフアナリスト
出版社を経て、不動産調査会社で不動産マーケットの調査・分析を担当。不動産市況分析の専門家として、テレビや新聞・雑誌、ウェブサイトなどで、コメントの提供や出演、寄稿するほか、不動産市況セミナーなどで数多く講演している。
2014年9月から現職。国土交通省、経済産業省、東京都ほかの審議会委員などを歴任する。
主な著書に「住宅購入のための資産価値ハンドブック」(ダイヤモンド社)、「沿線格差~首都圏鉄道路線の知られざる通信簿」(SB新書)などがある。
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