結局、アベノミクス継承で格差解消には程遠く
岸田首相の講演は、安倍晋三氏が政権発足1年足らずの2013年秋、米ニューヨーク証券取引所での講演で「Buy my Abenomics(アベノミクスは『買い』だ)」と発言したのを意識したものだろう。
だが、首相が掲げる「新しい資本主義」は、政権内からも「わかりづらい」(官邸幹部)と言われる。
昨秋、分配重視を掲げて政権を手にしたが、資産を多く持つ富裕層から税金を多く取ろうと金融所得課税の強化を打ち出したものの、「岸田ショック」といわれる株価下落を招き、先送りを余儀なくされた。
株主還元策である自社株買いの制限にも言及したが、その後、明確な説明はないままだ。
首相は今回の講演で、4本柱の投資などを成功させるために、引き続き「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」を一体的に進める必要があるとも言及している。
だが、なんのことはない、この3項目はアベノミクスの「3本の矢」そのもの。「首相が行おうとしている政策はアベノミクスの否定ではなく、その継承と部分的修正」(大手紙経済部デスク)ということだ。
この結果、マーケットでは「NISA拡充など市場に配慮を示したが、内容に具体性がなく、掛け声だけ聞かされても投資のしようがない」(エコノミスト)と、冷ややかな反応が目立つ。
一方、国民に向けては、分配重視のアピールになったか、疑わしい。
金融所得課税などに触れなかったのはもちろん、目玉の「資産所得倍増」も「金持ち優遇」の指摘が早くも噴出。与党メディアともいわれる産経新聞からも「格差是正などにどう取り組むかが、ますます分かりにくくなった。......資産から得られる所得が大きくなりすぎると、資産を持てる者がさらに富み、持たざる者との差が開く面もある」(2022年5月8日「主張」)と批判される始末だ。
岸田首相は、政権発足早々に「新しい資本主義実現会議」を設置。ここで自身のビジョンをまとめ、6月に「骨太の方針」にも盛り込み、7月の参院選に臨む考えだが、国民にアピールする中身を短時間で練り上げられるかは見通せない。(ジャーナリスト 白井俊郎)