内閣府が2022年5月18日に発表した1~3月期の実質GDP(国内総生産)速報値は、新型コロナの感染再拡大が尾を引いて前期比マイナス0.2%(前期比年率マイナス1.0%)と2四半期ぶりのマイナス成長となった。
日本経済は回復に向かうのか。「まん延防止等重点措置」が解除され、5月の大型連休でも人の動きが戻ってきている。観光や飲食など消費の復活に期待がかかる。
しかし、「日本国内はともかく世界経済の悪化が...」とエコノミストたちは警戒を緩めない。いったい、どういうことか。
内閣府発表は民間予想より「いい数字」だったが...
日本経済研究センターが5月16日に公表した、民間エコノミスト約40人による経済予測「ESPフォーキャスト調査」によると、1~3月期の実質GDP予測の平均値(年率換算)はマイナス1.4%だった。内閣府の発表のほうは年率換算でマイナス1.0%だから、エコにミストたちの予測よりはややよい結果だ。
だが、これは経済が回復しているといって、喜んでよいのだろうか。
今回の実質GDP速報値の結果、エコノミストはどうみているのだろうか。
ヤフーニュースのヤフコメ欄では、三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主席研究員の小林真一郎氏は、「2021年に入ってからの5四半期のうち3回目のマイナス成長であり、改めて日本の景気回復力の弱さが示されました」と指摘しつつ、
「4~6月の実質GDPについては、プラス成長に復帰する見込みです。ゴールデンウィークでの人出の多さなどから判断して、オミクロン株の感染収束後の個人消費は、これまでの節約疲れの反動もあって堅調に増加している可能性が高いためです」
と分析した。しかし、「ウクライナ危機緊迫化による資源価格上昇や円安によって物価上昇圧力が高まっており、消費者マインド悪化、実質購買力の低下を通じてせっかくの回復の動きに水を差し、勢いが徐々に鈍ってくることが懸念されます」と、今後について厳しくみている。
国民の景気実感を表す「所得」の数字は悪くなっている
実質GDP(国内総生産)とは、あくまで国内でどれだけ付加価値が生産されたかを示す数字だ。それよりも国民の景気実感を表す数字としては、国内でどれだけの所得が生み出されたかを示す実質GDI(国内総所得)のほうが重要だ、と考える経済専門家が少なくない。
なぜなら、GDIはGDPを所得面(分配面)からとらえたもので、国内で1年間に支払われた賃金と利潤、配当などの総額を示す指標だからだ。企業の負担や、国民1人1人の家計に直結する数字であり、貿易面で損失が広がれば、公益利得の減少として指標に表れる。
そういった観点から、実質GDIが実質GDPに比べて、大きく低下したことを問題視するのが、第一生命経済研究所のシニアエグゼクティブエコノミスト新家義貴氏だ。
新家氏のリポート「交易損失拡大で大幅に落ち込んだ実質GDI~21年度の実質GDIは前年比プラス0.1%にとどまる。進む海外への所得流出~」(5月18日)では、実質GDPの落ち込みが前期比年率マイナス1%なのに対し、実質GDIは前期比年率マイナス2.7%にまで大幅に落ち込んでいることに注目した=図表1参照。
これは、「資源価格の高騰によって交易損失が拡大し、海外への所得流出が進み、国内の実質購買力が減少していることを意味する」という。
このため、新家氏は、
「資源価格の上昇により交易損失が拡大している足元のような状況では、実質GDIの動きを確認することが非常に重要だ。(民間エコノミスト約40人が予測する)ESPフォーキャスト調査(5月調査)による2022年度の実質GDP成長率のコンセンサスは、前年比プラス2.37%となっているが、実質GDIでは実質GDP対比でかなり抑制される可能性が高い。2022年度の実質GDIは2021年度に続いて低成長が予想される」
と指摘する。
一部の専門家の間では、次の4月~6月期では実質GDP成長率が大幅なプラスに転じると予測、「明るい兆し」ととらえる傾向もあることに警鐘を鳴らしたかたちだ。ちなみに、2021年度の実質GDIは0.1%と、ほぼゼロ成長にとどまっている。
欧米に広がるインフレが日本を襲う心配も
一方、米国や欧州を覆っているインフレの可能性が日本にもある、と指摘するのは野村アセットマネジメントのマーケティングリポート「【エコシル】日本の1~3月期GDPはマイナス成長」(5月18日付)だ。
その根拠として、図表2のように、GDPデフレーターの動きを示している。経済が実際にどのくらい成長したかが判断するために、名目GDPを実質GDPに評価しなおすのが「GDPデフレーター」と呼ばれる指標だ。
数式で表すと、「名目GDP÷実質GDP=GDPデフレーター」となる。数字の見方としては、GDPデフレーターが1以上なら基準年と比べて物価が上昇(インフレ)、1未満なら物価が下落(デフレ)していることを意味するという。
リポートはこう述べている。
「世界でインフレが加速する中、これまで日本のインフ レは抑えられてきましたが、GDPデフレーターが前期比プラス0.4%と、2021年のマイナス圏からプラス圏に浮上しました。食品関連の値上げ発表などにあるように、輸入に頼る原材料の価格が高騰し、国内物価にもインフレが波及し始めた様子が確認できます。 インフレ動向は今後の金融政策に影響を与えるので、注視が必要です」
「水際対策の緩和、インバウンド戦略の再構築を成長の起爆剤に」
今後、「ロシア」「中国」「米国」のトリプル危機が襲ってくる懸念がある、と指摘するのは、野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミスト木内登英氏だ。
木内氏のリポート「1~3月期GDP統計:リスクは感染問題から物価高・海外景気減速へ」(5月18日付)では、エコノミストたちによる最新のESPフォーキャスト調査では、次回の4月~6月期には実質GDPが前期比年率プラス5.2%に転じると予想するが、実際にはプラス3%程度の小幅成長にとどまるだろう、という。その理由として、まとめると以下の4点を挙げる。
(1)岸田政権の経済対策が、ガソリン等の価格上昇を抑える補助金制度の延長・拡充と、子ども1人当たり5万円支給など効果が限定的。
(2)中国経済の急減速が日本経済に大きな打撃となる。1~3月期の中国の実質GDPは前年同期比プラス4.8%だったが、4~6月期にはマイナスになるとの予想も出ている。
(3)ロシア産天然ガスの輸入禁止にまで踏み出す可能性があり、EUの成長率は大きく鈍化することが予想される。
(4)米国の歴史的な物価高騰への対応で、異例のペースで金融引き締め策が実施され。それが年後半から来年にかけて、景気の急減速や金融市場の混乱を引き起こす可能性が高まっている。
このように今後、世界経済に逆風が吹くことが予想されるが、木内氏は「救い」もあるとして、次のように結んでいる。
「救いは水際対策緩和が成長の追い風か。他方で、政府が6月から実施する予定の水際対策の緩和は先行きの成長に一定程度の下支えとなることが期待される」「新型コロナウイルス問題からの経済の回復が、他国と比べて大きく後れを取っている日本では、水際対策の緩和、インバウンド戦略の再構築を急ぎ、それを成長の起爆剤とすることが、物価高対策以上に政策面で求められるのではないか」
(福田和郎)