経済減速を避ける必要があるのに、政策対応が難しい事情
今年(2022年)秋、中国は習近平指導部が異例の3期目を目指す共産党大会を控えている。政治的に重要な年であり、政策運営面では経済の安定が何より優先されるはずとみられていた。
ところが、共産党大会が逆に「重し」となり、景気回復よりも新型コロナ対策の「ゼロコロナ」戦略が優先される事態に陥ってしまった、と指摘するのが第一生命経済研究所の主席エコノミスト西濵徹氏だ。
西濵氏のリポート「中国の4~6月はマイナス成長(前期比)が必至の様相」(5月16日付)では、経済活動に悪影響が出ることは承知のうえで、主要都市のロックダウンなど「ゼロコロナ」戦略を止められない習近平指導部の事情を、こう説明する。
(1)政治的なリスクを背負ってもゼロコロナ戦略を通じたコロナ制圧に拘泥しているのは、仮に戦略転換に動けば、これまでの対応の全面否定につながり、指導力への疑念に発展することを警戒している。
(2)通常、個別の国の感染対策に言及しないWHO(世界保健機関)のテドロス事務局長が、ゼロコロナ戦略を「持続不可能で方針転換が必要」と述べた。中国政府はWHOを「無責任だ」と直ちに批判。ゼロコロナ戦略の転換を図る気がまったくないことを示した。
(3)こうした対応は、経済の一段の減速を招くリスクを高める。そのため、中銀(中国人民銀行)が実体経済を下支えするため、低迷が続く不動産市況のてこ入れを目的に住宅ローン金利の下限を引き下げる動きをみせた。
(4)しかし、米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀が金融引締めを強めており、仮に中銀が金融緩和に動けば、足元で進む人民元安(図表1参照)に拍車を掛ける。また、そうした動きが資金流出を加速させる可能性がある。だから、経済減速を避ける必要があるのに、政策対応が難しくなっているのが実情。
つまり「ゼロコロナ」戦略を続ける以上、深刻な経済の減速に対して手も足も出しにくい状況、というわけだ。となると、新型コロナの収束に期待するしかないが――。西濵氏は、
「14億人を上回る人口を擁するなかでの感染者数の動きをみれば、集団免疫にはほど遠い状況にあると判断できるうえ、(中略)早々に戦略転換に動く可能性は低い」「4~6月も久々に前期比でマイナス成長となる可能性は高まっており、サプライチェーンのみならず、中国需要の行方は世界経済にも影響を与えることは必至であり、これまで以上に中国当局の対応に注意が必要になっている」
と、今後の見通しに強い警戒感を示す。