これまで加熱式たばこの受動喫煙の影響については明らかになっていなかったが、東北大学の研究グループは2022年4月14日、加熱式たばこによる受動喫煙で危険にさらされている(曝露)割合は2017年から2020年の4年間で2.4倍も増加している、との研究結果を発表した。
日本の全人口の11.3%が加熱式たばこを使用
近年、加熱式たばこが男性、若年層、高所得層を中心に急速に普及し、2019年時点で日本の全人口の11.3%が、加熱式たばこを使用していると推定されている。
加熱式たばこは、タバコ葉を加熱して蒸気を発生させる製品で、副流煙(火がついたたばこの先端から出る煙)はない。一方、受動喫煙は吐き出された主流煙と副流煙が混ざったものと定義されている。
国内では2020年4月から健康増進法の改正が全面施行されたことで、紙巻たばこは職場や公共の場所などの屋内空間における原則禁煙化が義務付けられた。一方で加熱式たばこは、加熱式たばこ専用喫煙室内では飲食が可能となるなど「特別扱い」とされた。
たしかに、加熱式たばこは紙巻たばこと比較して、一部の有害物質の含有量が少ないものの、加熱式たばこによる受動喫煙への曝露が、喉の痛みや気分不良を引き起こすことが報告されている。
しかし、これまで一般住民を対象とした加熱式たばこによる受動喫煙への曝露に関する報告はなかった。
そこで、東北大学の研究グループは20~69歳の男女5221人に対して、2018年~2020年に毎年1回の追跡調査を実施し、2017年~2020年における加熱式たばこによる受動喫煙への曝露割合の推移と、その曝露リスクの社会経済的状況(教育歴)による違いを調べた。
20~69歳の約10%、加熱式たばこによる受動喫煙へ毎日曝露
調査に当たっては、加熱式たばこによる受動喫煙への曝露は「あなたはこの1か月間に自分以外の人が使っていた加熱式たばこの蒸気やミストを吸う機会がありましたか」という質問に、「ほぼ毎日」と回答した場合を、「加熱式たばこによる受動喫煙への曝露あり」と定義した。
その結果、受動喫煙への曝露割合は2017年の4.5%から2020年には10.8%へと2.4倍も増加していることが明らかになった。
男性は5.6%から12.1%へ約2.2倍、女性は3.6%から9.4約2.6倍へとそれぞれ増加しており、女性の増加が著しかった=表1。
社会経済的状況を調べるために行った教育歴(学歴)による違いでは、基本的に教育歴が高くなるにしたがって、曝露割合が低くなる傾向が見られた。
中学・高校卒では2017年に5.7%だった曝露割合は、2020年に12.3%に約2.2倍増加。また、専門学校・短大・高専卒は3.8%から10.7%と約2.8倍に、大学・大学院卒は3.8%から8.7%に約2.3倍に、それぞれ増加した=表2。
このため、曝露割合では学歴の高い方が比率は低いものの、伸び率としては大きな差異は見られなかった。
加熱式たばこは販売開始から日が浅く、その有害性に関しては未だに不明な点が多く残されている。
しかし、研究結果は20~69歳の約10%が、加熱式たばこによる受動喫煙へ毎日曝露されているという結果となり、加熱式たばこによる受動喫煙が、新たな社会問題として台頭し始めていることが示唆された。
研究グループでは、「研究結果は日本における加熱式たばこによる受動喫煙への曝露割合の推移を把握し、加熱式たばこによる受動喫煙防止に向けた施策立案の重要な基礎資料になると考える」とコメントしている。
研究結果は、4月12日に国際学術雑誌 Nicotine & Tobacco Research に掲載された。