透明性確保の観点から、開示義務の廃止には至らず
ところが、こうした岸田政権の動きに対し、市場からは開示義務の廃止を懸念する声があがった。
開示義務がなくなれば投資家への情報提供の後退だとして日本への投資が落ち込み、金融市場の競争力が低下してしまう心配があるというのだ。2月に始まった金融審の部会での議論は、「透明性が高い日本の資本市場の質を低下させる」といった反対意見が相次いだ。
学者などからは、四半期開示が短期志向を招くとの主張に対して、「学術上の根拠が弱い」などの疑問も出された。企業が目先の利益に走りがちなのは、ストックオプションといった株価に連動した役員報酬の普及などさまざまな理由があり、四半期開示を見直すだけで解決できる問題ではないという指摘も多い。
他方、企業からは負担軽減を求める声が強まっていた。関経連の松本正義会長は「経理担当者の作業量も増え、働き方改革にも逆行する」などと訴えていた。
こうした市場と企業の言い分を折衷するかたちで、四半期報告と決算短信の一本化での決着になった。
ただ、四半期報告書と決算短信の開示内容は全く同じではない。四半期報告書では、事業内容やリスクなどの公表も必要だが、経営成績が主な内容である決算短信は、そうした情報の開示を求めていない。
また、最近は財務諸表など経営成績だけでなく、気候変動の経営への影響やこの問題への取り組み、経済安全保障や人権などサプライチェーン(供給網)における問題も重視されるようになっている。こうした情報の開示も、経営者を規律付けるうえで重要さが増している。
透明性確保の観点からはむしろ開示の充実が求められる一方、事務負担が軽くなれば企業は経営資源を他に振り向けられる。「長期的な視点での経営へ」という首相の思いとは裏腹に、議論は「四半期開示の継続」の流れが早々に固まり、書類の一本化という実務的な落としどころで決着した。(ジャーナリスト 白井俊郎)