「禁輸」を叫びながらも輸入を続ける岸田首相の「二枚舌外交」

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   先進7カ国(G7)首脳は2022年5月8日、オンライン形式で会談し、ロシア産原油の禁輸などロシア依存の脱却を加速することで一致した。岸田文雄首相も「原則禁輸」で足並みをそろえる方針を表明したものの、腰が引けているのが実態だ。

  • 「原則禁輸」に踏み切ると明言した岸田首相だが…
    「原則禁輸」に踏み切ると明言した岸田首相だが…
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岸田首相、サハリン1、2権益「維持する方針に変わりはない」

   「プーチン大統領を勝利させてはならない」。この日は第二次世界大戦でナチス・ドイツが降伏した日。ロシアは翌9日を「対独戦勝記念日」にして毎年、盛大なパレードを実施している。

   G7はロシアが重視する対独戦勝記念日の機先を制するかたちで首脳会合を開き、プーチン氏にさらに厳しい経済制裁を突きつけたかっこうだ。

   G7ではすでに米国、英国、カナダがロシア産原油の輸入禁止に踏み切っている。今回の合意の結果、日本に加え、フランスと、ロシアに対する依存度の高いドイツやイタリアも禁輸に向けた調整を本格化することになる。

   岸田首相は9日、記者団に対し「エネルギー資源の太宗(大部分)を輸入に頼っている我が国としては大変厳しい決断だが、何よりもG7の結束が重要だ」と述べ、「原則禁輸」に踏み切ると明言した。

   とはいえ、記者との質疑が進むと、徐々に発言が後退していった。

   「原則とはどういう意味か」と問われると、「時間をかけて、フェーズアウトのステップをとっていくということだ」と説明。つまり、代替の輸入先を見つけるまでは禁輸措置はとらない、という意味なのだ。

   日本政府や商社などは、ロシアが極東サハリンで進める石油・天然ガス開発事業「サハリン1、2」に権益を有している。ここで産出される原油は、日本がロシアから輸入する原油の3分の1を占めている。

   欧米の石油メジャーがロシアのエネルギー開発事業から相次ぎ撤退する中で、「サハリン1、2」の権益を維持することへの是非を問われた岸田氏は「維持するという方針に変わりはない」と言い切った。

   さらに続けて、サハリン1、2について「エネルギーの長期かつ安価な安定供給に貢献している」と評価。G7がロシアに対する強いメッセージを打ち出した直後とは思えない発言だ。

「サハリン撤退せず」の方針に産業界から不満の声

   その振り付けをしているのが経産省だ。同省は長年、サハリン開発を後押してきた。

   関係者は「サハリンからの原油輸入は日本に多くの利益をもたらしている。権益を放棄すれば、中国に奪われる。輸入を突然、打ち切るなんてあり得ない」と明言する。岸田首相が「大変厳しい決断」という割には、日本の痛みは最小限にとどまる見通しだ。

   首相が経産省の「策略」に乗る背景には、足元の原油価格高騰に対する危機感がある。日米欧が一斉にロシア産原油の禁輸に踏み切り、中東産原油などの争奪戦がはじまれば、原油価格の高騰は避けられない。

   4月26日に総額6兆2000億円の物価高騰緊急対策を打ち出したばかりの首相にとって、インフレがさらに加速する事態だけは何としても避けたいというのが本音だ。

   ただ、こうした政府方針に産業界から不満の声が高まりはじめた。丸紅の柿木真澄社長は4月6日の決算記者会見で、自社も出資しているサハリン事業について「できれば撤退したいという気持ちはある」と明かした。

    別の商社関係者は「政府が撤退を決めない限りは、サハリンから手を引けない。欧米企業がロシア離れを進める中、日本だけが投資を続ける状況になれば、国際社会からどういう批判を受けるかわからない」と懸念する。

   表では「禁輸」を叫びながら、実態は輸入を続ける岸田首相の「二枚舌外交」は成功するのか。一歩間違えば、欧米の日本不信を高めるきっかけとなる恐れもある。(ジャーナリスト 白井俊郎)

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