「サハリン撤退せず」の方針に産業界から不満の声
その振り付けをしているのが経産省だ。同省は長年、サハリン開発を後押してきた。
関係者は「サハリンからの原油輸入は日本に多くの利益をもたらしている。権益を放棄すれば、中国に奪われる。輸入を突然、打ち切るなんてあり得ない」と明言する。岸田首相が「大変厳しい決断」という割には、日本の痛みは最小限にとどまる見通しだ。
首相が経産省の「策略」に乗る背景には、足元の原油価格高騰に対する危機感がある。日米欧が一斉にロシア産原油の禁輸に踏み切り、中東産原油などの争奪戦がはじまれば、原油価格の高騰は避けられない。
4月26日に総額6兆2000億円の物価高騰緊急対策を打ち出したばかりの首相にとって、インフレがさらに加速する事態だけは何としても避けたいというのが本音だ。
ただ、こうした政府方針に産業界から不満の声が高まりはじめた。丸紅の柿木真澄社長は4月6日の決算記者会見で、自社も出資しているサハリン事業について「できれば撤退したいという気持ちはある」と明かした。
別の商社関係者は「政府が撤退を決めない限りは、サハリンから手を引けない。欧米企業がロシア離れを進める中、日本だけが投資を続ける状況になれば、国際社会からどういう批判を受けるかわからない」と懸念する。
表では「禁輸」を叫びながら、実態は輸入を続ける岸田首相の「二枚舌外交」は成功するのか。一歩間違えば、欧米の日本不信を高めるきっかけとなる恐れもある。(ジャーナリスト 白井俊郎)