エーザイの株価が2022年5月6日、一時前営業日終値比231円(4.0%)安の5504円まで下げた。連休中の5月4日、エーザイが米バイオジェンと共同開発したアルツハイマー病治療薬「アデュカヌマブ」に関して減損損失などを計上し、2022年3月期連結決算(国際会計基準)の業績予想を下方修正したことを嫌気する売りが広がった。
アデュカヌマブへの株式市場の期待はすでにしぼんでいるが、業績に具体的な影響が及んだことで、投資家の間にあらためて株を手放す動きが出た。
臨床試験のうち1つで、思うような結果得られず
それでは下方修正の内容をみておこう。いずれも2021年11月1日に公表した数値を修正した。売上高にあたる売上収益は、従来予想比260億円増の7560億円(前期比17.0%増)。この間進んだ円安で円ベースの売り上げが増えることなどによる。営業利益は、従来予想比245億円減の535億円(同3.3%増)。最終利益は、従来予想比125億円減の480億円(同14.0%増)。
アデュカヌマブの普及が事実上困難になり、販売権の評価を見直して減損損失80億円を計上するほか、バイオジェンの在庫評価損のエーザイ負担分165億円を計上することが影響する。年間1株160円(前期と同額)の配当予想は変更しない。
アデュカヌマブは、アルツハイマー病の原因とされるタンパク質を脳内から除くことで症状の進行を抑える効果を期待できるとして注目されていた。
2021年6月、米食品医薬品局(FDA)がアデュカヌマブを条件付きで承認した際には、エーザイの株価は1万2765円まで上昇した。しかし、2つの臨床試験のうち1つで効果が確認できなかったことなどから安全性や有効性について疑問の声が上がり、米国で販売は進まなかった。
別の治療薬候補「レカネマブ」に注目集まる
普及のカギを握る米国の高齢者向け公的医療保険「メディケア」が2022年1月、保険適用を臨床試験の参加者に限る方針を表明、4月7日に正式決定したことで、販売は事実上困難になった。日本や欧州では承認されていない。
この間、エーザイの株価は下落基調をたどり、減損処理発表が最終的な株価下落の材料となった格好だ。バイオジェンは5月3日、ミシェル・ボナッソス最高経営責任者(CEO)の退任を発表。アデュカヌマブの販売が困難になったことの引責とみられている。
ただ、株式市場ではアデュカヌマブの失速は織り込み済みとの見方が多く、最終段階の臨床試験が進む別のアルツハイマー病治療薬候補「レカネマブ」が注目されている。
今秋にはデータが出そろうとされるレカネマブの動向次第では、株価が大きく反応することになりそうだ。(ジャーナリスト 済田経夫)