先日、SNSをふと見ると「低学歴国家」なる言葉がトレンドに上がっていて目にとまった。
なんのことはない。わが日本国の博士号取得者が世界的トレンドに逆行して、減少していることを報じた記事がきっかけだったのだが、トレンドに上がるということは驚いた人が多かったということだろう。
いい機会なので学歴と雇用について、まとめておこう。
【参考リンク】
「『低学歴国』ニッポン 革新先導へ博士生かせ 教育岩盤 揺らぐ人材立国」(日本経済新聞 2022年5月2日付)
「揺らぐ人材立国(1)『低学歴国』ニッポン 博士減、研究衰退30年 産学官で意識改革を」(日本経済新聞 2022年5月2日付)
博士合取得者が減ったのは日本が終身雇用だったから
終身雇用を前提とした組織では、できるだけ若く伸びしろのある人材を採用して、自社に特化した形で育成することが基本となる。
伸びしろの有無は大学名で判断されるため、ポテンシャル採用という呼び方をされることもある。
こうした採用を行う組織からすると、どうしても修士以上は「伸びしろが少なく、自社にとって使い勝手の低い専門性しかない」と映ってしまう。
終身雇用型組織では、浪人や留年で3年以上寄り道している人間も敬遠されるが、これも根っこは同じである(※)。
これに対し、終身雇用を前提としない組織では、自社でゼロからの人材育成なんてしないから、伸びしろやポテンシャルといった物差しがそもそもない。
(実際に採る採らないは別にして)博士だからとか歳を食っているからという理由で門前払いするようなケースはほとんどないように思う。
だが実際問題、日本を代表するグローバル企業はほぼ例外なく終身雇用型組織だ。そういう大手企業が博士を門前払いしつつ、ろくすっぽ勉強などしていないような学部生ばかりに内定を出し続けたら、博士課程を目指す人間が減るのも当然だろう。
以上が、日本が「低学歴国家」に落ち着いた背景である。
(※)理工系職種は状況が異なり、大手の研究職は逆に博士(単位取得退学含む)が歓迎され、技術職も修士以上でないと厳しい。
ジョブ型雇用で「低学歴化」から抜け出す!
1990年代に、政府が音頭を取って大学院の重点化を推し進めた時期があった。博士を活かす組織内改革をスルーして「博士を諸外国並みに増やせば生産性も上がるだろう」とやってしまったわけだ。
結果は、博士課程は修了したものの、新卒採用に応募すると「博士は対象外です」と言われ、中途採用に行けば「職歴がない人は対象外です」と言われる高学歴な就職難民が量産されることとなった。
おそらく今回のニュースを読んで、当時を連想した人は少なくなかったのではないか。
とはいえ、今、日本は100年に一度レベルの大転換期にある。日本経済団体連合会が終身雇用・年功序列はもはや維持できないと白旗を掲げ、実際に少なくない数の大企業が脱・年功序列であるジョブ型雇用に舵を切っているからだ。
【参考リンク】
「『雇用制度全般の見直しを』中西経団連会長 経済3団体トップの年頭所感」(日本経済新聞 2022年1月1日付)
ジョブ型雇用は「伸びしろ」や「ポテンシャル」の対極にある考え方と言っていい。いま担える職責で処遇が決まるなら、年齢やポテンシャルは関係なくなるし、人より長く勉強することが意義を持つようになる。
また、年功序列というレールがなくなることで、途中で大学院に戻って学び直すという社会人も増えるだろう。90年代と比べて、状況はかなり変わってきていると言える。
今後ジョブ型雇用が浸透していく中で、徐々に日本の「低学歴化」も修正されていくのではないか、というのが筆者の見方だ。
(城繫幸)