黒田総裁が金融政策変更に踏み切れないワケ
黒田総裁が金融政策変更に踏み切れないのには理由がある。
デフレからの脱却を目指した安倍晋三政権は2013年1月、黒田総裁就任直前の日銀との間で政策協定(アコード)を締結した。
日銀が物価目標2%の早期達成を目指し、政府は成長力強化や持続的な財政構造確立に取り組むという内容だ。この瞬間から日銀は事実上、政府の内諾を得なければ金融政策を変更できない状況に追い込まれた。
この推進役として選ばれたのが、同年3月に日銀総裁に就任した黒田総裁だった。
就任直後の記者会見で「2%の物価上昇を2年で達成する」と啖呵を切った黒田総裁だったが、物価を上げられないままマイナス金利の導入など金融緩和を次々と強化していった。
この間に財政改革に取り組むはずだった政府の財政は緩み続け、気づいた時には金融緩和の「出口」を議論することさえできない状況になっていた。
自民党の安倍晋三元首相はこの間も「(日銀の)金融緩和政策をしっかり継続しないと日本経済を悪化させかねない」との発言を続け、アベノミクスで手を携えてきた黒田総裁を擁護している。
このためか、岸田文雄首相も「(2%の物価安定目標に向け)引き続き努力を続けていただくよう政府としては期待している」(4月26日の記者会見)と、日銀の金融政策を支持する姿勢を変えていないが、政権内からは「足元の円安・物価高騰を何とかしないと今夏の参院選に響きかねない」との声がもれる。
最近は国会に呼び出されては野党の集中砲火を浴びる場面が目立つ黒田総裁。このままでは物価高騰のスケープゴートにされかねない状況だ。
「これまで(物価)目標が達成できずにいたが、今回は間違いなく2%を超える」
政策協定締結時に財務相だった自民党の麻生太郎副総裁は4月28日、党の財政健全化推進本部のあいさつで、日銀を突き放すようにそう指摘した。
黒田総裁の心中やいかに。(ジャーナリスト 白井俊郎)