「建物の値段は頼み方で9割決まる」(ヨシモトブックス発行、ワニブックス発売)という強烈なインパクトのタイトルに引かれて、本書を手に取った。どういうことだろう? 帯に「戸建て新築費2480万円→1680万円」「ビル建築費9800万円→4800万円」とあり、質を下げずに、値段を下げるノウハウを伝授する本だと分かった。でも、そんなことが可能なのか?
「建物の値段は頼み方で9割決まる」(掛川将著)ヨシモトブックス発行、ワニブックス発売
著者の掛川将さんは、建築コンサルタント。株式会社工事企画代表取締役。IT企業、建設ディベロッパーを経て2016年同社を設立。掛川さんは、戸建て・マンションの新築などの工事計画がスムーズに進むよう手助けする仕事をしている。これは、一般的にはCM――コンストラクション・マネジメントと呼ばれる。施工会社と発注者の間に立ち、中立的な立場で工事計画を調整する役目だ。「建築工事では欠かさず置いておきたいもの」と国でも活用を推奨、国土交通省は平成14年に「CM方式活用ガイドライン」を策定している。
しがらみにとらわれた「無駄」がある
掛川さんは、これまでの経験から、「建築業界のブラックボックス」が見えてきたという。さまざまなしがらみにとらわれた「無駄」があった。それらを排除することで、質を下げずにコストダウンが可能になるそうだ。
実例として、木造アパートのリノベーションを紹介している。8世帯が入った単身者向け物件。ある大手リノベーション会社に見積もり請求したところ、3278万円だった。
はたして価格は妥当なのか。もっと安く請け負ってくれるところはないのか。セカンドオピニオンが、掛川さんの会社に求められた。プランニング、施行会社の選定、外構や室内整備は掛川さんのアドバイスをもとに直接発注の手配し、管理は施行会社に依頼した。
この結果、大手リノベーション会社とほぼ同じ間取りで、1890万円という見積もりを出すことができた。家賃はリノベーション前が6万円だったところ、リノベーション後は6万3000~5000円に設定。利回りは31%以上、およそ3年半で投資資金を回収できるパフォーマンスを実現したという。
施行会社に管理してもらう「コストオン」方式がカギ
ところで、なぜ大手リノベーション会社の見積もりよりも大幅にコストダウンすることができたのか。
それは、大手の請負体制に原因があった。「一括発注方式」と呼ばれ、しがらみも多く、外注の積み重ねで見積もりがふくらんでいたのだ。掛川さんは、発注者が一部の工事にかかわる専門会社を選定し、施行会社に管理してもらう「コストオン」という方式で、安さを実現したという。
ここまでが「第1部 建築価格の真実」で、「第2部 プランにこそ力を!」以降に具体的なノウハウが書かれている。
建物を建てようと決めた段階で、まず着手したいのが「予算計画書」だ。「どこにこだわり、どこに妥協点を置くか」を明確にしておくことで、関係者の間でイメージを共有することができる。
予算計画書は「内部用」「施行会社用」「金融機関用」と3種類作成するのが理想的だ。施行会社用は内部用で示したうちの下限を目標として提出する。逆に、金融機関用は上限で融資の打診をする。
予算計画書をまとめたら、まずは「企画」だ。一軒家の場合はともかく、マンションの建設やアパートのリノベーションの場合は不可欠だ。掛川さんは、東京・新宿区にワンルームマンションを建てる案件で、「傾斜地を利用し、半地下とし、地下階を含めた3階建てにする」という企画を出し、部屋数の条件を満たしたという。次が設計・発注だ。
設計には「意匠設計」「実施・設備設計」「構造設計」の3つがあり、最低限、施行会社へ見積もりを取る前に、意匠設計のうち「配置図」「平面図」「立面図」は必ず作成依頼することを勧めている。
見積もりを依頼する際のテクニック
施行会社に概算見積もりを依頼する際は、ひとつの「標準となる建物図面」を用意しておくことを強く勧めている。
図面一式は、一般的な家であれば20万円ほどの出費になる。だが、最終的に200万円から300万円くらいのコストダウンは容易に実現できるという。
概算見積もり依頼時に使えるワードはこうだ。
「設備は御社の掛け率のいいメーカーで見積もってください。その際のメーカー仕様書もいただけると助かります」
「別途工事となる項目は別紙に明記してもらえると助かります。できれば各別途工事の想定される工事値幅も教えてください」
「御社ではコストオンは可能でしょうか」
コストオン方式なくして、工事価格の大幅コストダウンや品質向上はできないからだ。応じない場合は、候補から外すのが無難だ。
逆にやってはいけないのが、見積もりの横流しや「坪単価」で判断することだ。。
契約時の注意、施行中のトラブルへの対応なども詳しく書いている。
掛川さんのようなCMの存在は、発注者だけでなく。施行会社側にとっても貴重な存在だという。無理な要求をする発注者を説得し、間を取り持つ役割がいると、立場上、どうしても下手にでなければならない施行会社としてもありがたいからだ。
本書には、実務的なことが山ほど書いてある。逆に言えば、自分で家を建てるにはかなりの勉強をしなければならない、ということだ。その手間を惜しむと、建売住宅を買ったり、ハウスメーカーの住宅を買ったりすることになる。その分、割高になることは言うまでもない。
掛川さんは「この本の内容をきちんと理解するだけで、建物の金額は8%程度抑えられるはずです」と書いている。自分の理想の家を自分の力で建てようと考えている人には、バイブルのような本と言えよう。
サブタイトルの「劇的コストカットの『段取り力』と『魔法の言葉』」に偽りはない。
(渡辺淳悦)
「建物の値段は頼み方で9割決まる」
掛川将著
ヨシモトブックス発行、ワニブックス発売
1650円(税込)