上場企業の財務諸表から社員の給与情報などをさぐる「のぞき見! となりの会社」。今回取り上げるのは、日本国内のほか海外11の国と地域で事業を展開する、総合転職エージェントのJAC Recruitment(ジェイ エイ シーリクルートメント)です。
海外進出する日系企業の人材採用を支援するため、1975年に田崎忠良氏(78、現取締役最高顧問)がロンドンで創業。1988年に日本進出し、人材派遣や求人広告などに事業を拡大しながら、2006年にJASDAQ上場、2015年に東証一部上場に市場変更を果たしています。現在は、東証プライム市場です。現取締役会長兼社長の田崎ひろみ氏(71)は、80年代に入社した忠良氏の妻です。
コロナ禍で連続増収増益ストップもV字回復
それではまず、JACリクルートメントの近年の業績の推移を見てみましょう。
JACリクルートメントの売上高は、2018年12月期に急増しています。これは2018年にシンガポールの人材紹介会社JACリクルートメント・アジアを買収して子会社化したためですが、これにより営業利益率が30%台から20%台前半に減少しています。
しかし2020年12月期には、コロナ禍による景況悪化と求人減によって減収減益に。2013年から継続してきた増収増益の連続記録がストップしています。
2021年12月期は前期からの反動による求人増もあり、コロナ禍以前の2019年12月期をも上回る増収を達成。営業利益も前期比で増加しましたが、営業利益率の改善には至っていません。
2022年12月期の業績予想は、売上高は前期比15.3%増の184億96百万円、営業利益は同4.6%増の55億52百万円、最終利益は同7.7%増の39億68百万円の見込みです。
他の業種と比べると、総合人材サービスのパソナグループ(2021年5月期)は、売上高3345億40百万円に対し、営業利益は199億40百万円で、営業利益率は6.0%。ピーク時から悪化しているものの、JACリクルートメントの利益率がいかに高いかがわかります。
「登録型」の国内人材紹介事業が売り上げの98%占める
JACリクルートメントの事業セグメントは「国内人材紹介事業」と「国内求人広告事業」「海外事業」の3つで構成されています。
人材紹介サービスには、候補者が人材紹介会社のDBに情報を登録して求人企業とマッチングする「登録型」と、人材紹介エージェントがクライアント企業に適した候補者をヘッドハンティングして紹介する「エグゼクティブサーチ型」の2種類があります。
JACリクルートメントの主要事業は前者の「登録型」で、若手幹部候補から中間管理職、スペシャリストをコアターゲットとしています。求人検索サイトとの違いは、求人情報が非公開求人中心であることや、企業の採用担当者とのあいだをコンサルタントがつなぐことなどです。
2021年12月期のセグメント別売上高は「国内人材紹介事業」が222億73百万円で、全体の97.5%とほぼすべてを占めています。ウェブ面談の徹底やコンサルタントの採用体制の強化、求職者募集の広告投資などが功を奏し、前期比の伸び率は14.8%増となりました。
このほか、求人広告サイト『キャリアクロス』を運営する「国内求人広告事業」は2億46百万円(全体の1.0%)、シンガポール、英国、ドイツ、韓国が好調の「海外事業」は23億32百万円(同9.4%)でした。
セグメント別損益では、国内人材紹介事業のみが黒字(58億59百万円)で、国内求人広告事業(△73百万円)と海外事業(△9百万円)は赤字となっています。
平均年齢35歳、平均年収800万円
JACリクルートメントの2021年12月期末の従業員数は、単体1,007人、連結1,440人です。本体では国内人材紹介事業を行い、国内求人広告事業と海外事業はグループ会社で行っています。
2017年12月期末の従業員数は、単体757人、連結811人にとどまっており、翌期から急増しています。これは、前述した海外企業の連結子会社化と、積極的な中途採用および新卒採用を行ったためです。
JACリクルートメントの平均年間給与(単体)は、2021年12月期は800万円。平均年齢35.5歳、平均勤続年数4.5年です。人材紹介事業は労働集約型ビジネスの側面もあり、従業員の人数に比例するように売り上げが伸びる傾向があります。
この5年は平均年齢が微増で平均勤続年数が横バイということから、30代半ばの中途採用によって従業員が増えており、平均年間給与も増えていると予想されます。
JACリクルートメントの採用サイトを見ると、「リクルートメントコンサルタント」という職種名での中途採用の募集が行われています。給与は年俸制で400万円以上+業績賞与(パフォーマンスボーナス)。昇給と賞与支給が年2回ずつあります。
年収例として、33歳中途入社2年目で850万円(基本年俸+業績賞与)という金額が示されています。なお、JACリクルートメントでは「喫煙率0%」を目指しており、喫煙者は採用されません。
「一人あたりの月間成約額」が大きく改善
JACリクルートメントの株価は、今年に入り2022年1月4日に2140円の年初来高値を付けていますが、その後は下落しており、3月8日には1711円の年初来安値に。直近では1800円台で推移しています。
コロナ禍の影響がひと息つき、本来の「人手不足」が顕在化することで、JACリクルートメントの業績は回復しつつあります。コンサルタントの採用が進んでいるだけでなく、コンサルタント一人あたりの月間成約額も、2020年12月期の181万円から、2021年12月期には228万円へと大幅に改善し、当面の目標である240万円に近づいています。
また、国内事業が中心ではあるものの、外資系企業や海外進出企業に求められる国際人材の紹介に注力しており、「国際領域の事業比率」は61%に達しています。
現在、中長期的な成長に向けた経営方針として「JAC as No.1 人材紹介のプロフェッショナル集団として質と収益で世界No.1を目指す」という壮大な目標を掲げています。これが達成された暁には、株価も急上昇することでしょう。(こたつ経営研究所)