「目をつぶって政策金利を引き上げる」独走が怖い
こうしたFRBの「物価高対策一辺倒の硬直な独走姿勢」に懸念を示すのが、野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏のリポート「急速な金融引き締めで不安定化する米国株式市場」(5月6日付)のなかで、5月5日の米国株式市場でダウ平均株価は、前日比1063ドル安と大幅に下落したことに注目した。
「5日の米国市場で際立ったのは、『株安、債券安(国債利回り上昇)、ドル高』の構図だ。ただし、この構図の下では、米国市場の混乱もなお比較的限定的であるかもしれない。
それ以上に注意を要するのは、先行き米国市場が『株安、債券高(国債利回り下落)、ドル安』の傾向を強める場合だ。これは、急速な金融引き締めによって米国経済が減速、あるいは失速に向かうとの懸念が強まる局面である。その際には、ハイテク株にとどまらず、幅広いセクターで株価は下落するとともに、(中略)米国金融市場は混乱の度を強めることになるだろう」
その際、カギになるのが景気(経済)に対してアクセルを吹かしもしないし、ブレーキも踏まない「中立金利」の水準だという。
「FRBは、経済に中立な政策金利の水準である『中立金利』を2.25%~2.5%と考え、今年年末までにその水準までは、いわば目をつぶって政策金利を引き上げることを目指しているように見える」
金融引締めの局面では、通常、政策金利が中立金利に近づけば、景気への配慮で引締めのスピードを緩めるべきなのだが――。現状では、FRBの硬直した姿勢が世界経済の一番のリスクだとして、木内氏はこう結ぶ。
「FRBが、今年年末までに政策金利を『中立金利』まで引き上げることにまい進し、景気や物価の変調、あるいは金融市場の混乱の芽に十分に注意を払わない場合には、来年の米国経済、そして世界経済が失速する『ハードランディング』(景気の急激な失速)シナリオの可能性が高まることになるだろう」
「その場合、為替市場ではリスク回避の円高傾向が一転して強まる可能性がある。日本経済は米国向けを中心とする輸出急減速、米国市場と連動した株安、そして現状とは逆に急激な円高に見舞われ、失速のリスクが高まるだろう」