日本では「新年度入り」として新入学、新入社を迎える4月は、芽吹きの春にふさわしく学校や会社にフレッシュな風が吹き、周囲の者までなんとなくすがすがしい気分になるものです。
海外では秋が年度始まりというのが主流のようで、一時期我が国の教育機関でも世界標準に合わせて秋入学にするべきだとの議論が活発化していましたが、それも今は下火に。やはり、花や新緑をめでつつ新たな者を迎えるこの季節こそが新入学、新入社にはふさわしい日本人らしい美徳だなぁ、と私は感じ入っているところです。
仕事のオンライン化のおかげで...「リアル二刀流」生活始めました
というのも実は、私自身が4月から大学生として新生活をスタートさせ、自分自身が新入生として春を迎えたフレッシュ感に加え、この季節の心地よさに後押しされて、気分が大いに上がっているという事情があるからでして。新生活の始まりが新緑の春で本当に良かった、と現在心底実感しているわけなのです。
私の大学生活は、いわゆる社会人カレッジで、午後の通学を中心としたカリキュラムです。その中身は、一部、息子、娘世代よりも若い大学生たちと一緒に受講する教養科目の講義があります。それを受けつつ、メインは自己の研究課題を見つけて1年かけて担当教授の指導のもと、研究活動にいそしみ、最終的にその成果を論文にまとめる、というものです。
したがって、午前と夜は今まで通り仕事をして、午後を大学生活に充てるという、今様に言うなら「リアル二刀流」生活です。大学には勉学用の部屋も用意され、素晴らしい図書館が使い放題。分からないことがあれば、現役の大学教授に相談ができるという、なんとも恵まれた環境で感動的な毎日を送っています。
こんな生活が可能になった大きな要因は、長引くコロナ禍による仕事のオンライン化ということがあります。実はこの社会人カレッジ、以前から気にしていたのですが、仕事との両立は難しいので、もう少し仕事のボリュームが軽くなったら考えようと思っていました。そんな折、コロナ禍でいきなりオンライン化が進んで外出が激減。これなら二刀流生活が可能かも、と判断して思い切って新たな一歩を踏み出したわけです。
研究の砦となる所属ゼミナールは、教授を囲んで我々生徒が6人。うち女性が2人。先般、顔合わせで自己紹介をし合ったのですが、年齢的には私が下から2番目で、最年少が60歳、最年長はなんと80歳でした。
絶えることのない勉学意欲は、敬服に値します。私以外は基本的にビジネスリタイア組で、第二、第三の人生を勉強、研究に生活の軸を置いて過ごしてみたいという皆さんです。大手電機会社および食品会社OB、政府外郭団体を勤め上げられた方など、皆さん基本的にご自身の定年まで仕事と向き合ってこられた方々でした。
やっぱりリアルのコミュニケーションは大切と痛感
大学に通い始めてまだ3週間ですが、コロナ禍生活が長引いたせいもあり、人と会って直接話をすること、あるいは話を聞くこと、あるいは新しい出会いを通じて、さまざまな環境で生活や仕事をされてきた方々と交流することで、リアルに刺激を受けることの新鮮さ、大切さを改めて痛感しています。
2年を超えるコロナ禍では、ややもすると、仕事や打ち合わせや商談のオンライン化の利便性ばかりが強調され過ぎているような嫌いもあります。ただ、利便性と充実度は必ずしも合致するものではなく、むしろトレードオフの関係に近いのではないかとすら感じています。
新鮮味にあふれた大学生活の中で、リアルのコミュニケーションの大切さを改めて実感するに至り、こと人と人との関係に関してはデジタル化がアナログな関係をまんま置き換えられるモノではない、という認識を強くしているところです。
私の周囲では、コロナ禍で社内外問わず、リアルな接点やアナログなコミュニケーションの重要性を忘れているのでは、と思しき経営者が少なからず見受けられます。特にIT系の経営者には、自社のITサービスがコロナ禍における利便性の向上を担ってきたという自負もあるのでしょうか、アナログ軽視の危険性を感じさせられもしています。
「ここ1年以上リアルでの会議はしていない」「コロナ禍以降、直接会って話をしていない社員がけっこういる」といった思い当たりがもしあるのなら、それは決して威張れることではなく、むしろ要注意の危険信号であると理解した方がいいかもしれません。デジタル技術に頼りすぎることで、新たな出会いや気づきの機会を失っている危険性を感じます。
思えば私が新生活スタートの春に、このうえないリフレッシュ感を感じることが出来ているのは、すべての授業がオンランではなく、リアルで運営され教授や学生たちと直接触れ合うことが出来ているからに違ないとも言えます。
企業経営においても、オンライン化で知らず知らずに失われたものを取り戻すためにも、コロナが安定期に移行しつつある今こそ、リアルやアナログ・コミュニケーションへの思い切った回帰も必要なのではないか、と感じされた私の新生活雑感でありました。
最後に若干余談ですが、今考えている私の大学での研究テーマは、たとえば江戸時代の版画工房がいかにして日本の「ものづくり企業」の原点となり得たのか、といった観点から中小企業マネジメントの原点を紐解いてみてはどうかと思っています。
それが現場で企業経営のご支援をさせていただく際のプラスになるのではないか、と思えばこその研究テーマでもあります。研究課題に限らず、大学生活の中で新たな学びとして得るものと出会った際には、今後本連載でも適宜紹介させていただき、読者の皆様のお役にも立てればと思っています。
(大関暁夫)