上場企業の財務諸表から社員の給与情報などをさぐる「のぞき見! となりの会社」。今回取り上げるのは、旅行関連事業を中心に展開するエイチ・アイ・エスです。
エイチ・アイ・エスは、海外航空券の販売を目的として1980年に東京・新宿に設立され、2002年に東京証券取引所の市場第2部に上場、2004年に市場第1部に指定替え(いずれも、当時)。この4月の新市場区分ではプライム市場に区分されました。
2008年にホテル事業、2010年にテーマパーク事業に進出するなど事業を拡大しており、近年は「変なホテル」の国内開業を積極的に展開しています。
売上高のピークから2期連続赤字に転落
それではまず、エイチ・アイ・エスの近年の業績の推移を見てみましょう。
エイチ・アイ・エスの売上高は2019年10月期までは右肩上がりに伸びていました。しかし、2020年10月期には前期比46.8%減、翌2021年10月期には同72.4%減と、2期連続で大きく落ち込んでしまいます。
原因は言うまでもなくコロナ禍で、世界各国で外出制限や渡航制限が実施されていることを受け、旅行商品の取り扱いが激減したためです。
営業利益率は、コロナ禍前までは2%台で推移していましたが、直近2期間は営業赤字に転落しています。
なお、エイチ・アイ・エスはコロナ禍の影響に伴う特例措置の適用を受け、雇用調整助成金ならびに国や地方自治体などから助成金を受け取っています。その額は、2020年10月期は99億69百万円、2021年10月期は177億70百万円にのぼっていますが、2期連続の最終赤字となっています。
2022年10月期の業績予想は、「現時点で合理的に算定することが困難」という理由で未定となっていますが、致し方ないでしょう。
エイチ・アイ・エスの報告セグメントは、「旅行事業」「テーマパーク事業」「ホテル事業」「九州産交グループ」「エネルギー事業」の5つです。
主力の旅行事業では、海外旅行、国内旅行のほか、海外インバウンド事業、海外アウトバウンド事業を行っています。
テーマパーク事業では、長崎県佐世保市の「ハウステンボス」、愛知県蒲郡市の「ラグーナテンボス」を運営。ホテル事業では、「変なホテル」など国内ホテルと海外ホテルを運営。九州産交グループでは、バス事業を運営しています。
このほか、エネルギー事業では、電力小売事業や再生可能エネルギーなど新規電源の開発およびその付帯事業を行っています。
コロナ禍前の2019年10月期の売上高および売り上げ構成比(除く調整値)は、旅行事業が7225億円で全体の88.7%と大半を占めていました。
次いで、テーマパーク事業の281億円(3.4%)、九州産交グループの222億円(2.7%)、エネルギー事業の205億円(2.5%)、ホテル事業の127億円(1.6%)、その他事業の84億円(1.0%)と続いています。
一方、営業利益の構成比は、旅行事業の67.6%に次いで、テーマパーク事業が25.0%と健闘。営業利益率も、旅行事業の1.9%に対し、テーマパーク事業は18.1%と高い利益率を誇っています。
このような状況も、2021年10月期になると一変し、旅行事業の売上高はピーク時の94.0%減となる430億円にまで落ち込み、すべてのセグメントで営業赤字となっています。
平均年収は2年間で135万円も減少
エイチ・アイ・エスの2021年10月期末の従業員数は単体4078人、連結1万618人です。コロナ前の2019年10月期末の従業員数(単体5638人、連結1万5202人)と比べると大きく減少しています。
連結での減少は、海外子会社における人員整理、単体での減少は産業雇用安定助成金の活用によるグループ外出向によるものです。
報道によると、出向先のひとつは家電量販店「PC DEPOT」を運営するピーシーデポコーポレーションで、出向したエイチ・アイ・エス社員はここで店舗やコールセンターでの顧客対応業務を担当するとのことです。
エイチ・アイ・エスの平均年間給与(単体)は、コロナ前の2019年10月期には500万円台でしたが、2021年10月期は367万円にまで減少しています。
平均年齢、平均勤続年数ともに1年間で約3年進んでおり、グループ外出向が若手社員中心に行われたことが推測されます。
平均年齢が上昇し、平均年間給与が下がっているということは、本体に残り給与が大幅に下がった社員が少なからずいるということでしょう。
なお、エイチ・アイ・エスの採用サイトには、2023年度の新卒採用を見送りとする告知が掲載されています。
将来は事業ポートフォリオを「旅行50:非旅行50」に
2021年10月期の決算説明資料には今後の想定シナリオとして、次のようなストーリーが示されています。
「2022年前半は日本国内マーケットに需要は集中。海外旅行においては、22年の夏よりハワイ・グアムなどビーチ方面から回復を想定。その後少しずつアメリカ、ヨーロッパ方面の需要が戻るにつれ、アジアもワクチン接種が進んだ国からの回復が進み、23年4Q頃には19年水準の環境に戻る」
そして「需要回復局面での反転速攻」「財務戦略の強化」「新規事業のチャレンジ」によって、早期の黒字化を目指す経営方針を掲げています。
今後の目指とすべき姿として、旅行関連事業で営業利益の90%を生み出していた構造を変え、「旅行関連事業50%・非旅行事業50%」にしていく事業ポートフォリオのイメージも示されています。
コロナ禍がエイチ・アイ・エスの事業に大打撃を与えたことは事実です。しかしコロナ前も営業利益率は2%台と低く、収益構造に不安がなかったとはいえません。
給与が大幅に減った社員やグループ外に出向した社員もいる中で「災い転じて福となす」と軽々しくいえませんが、企業体質が持続可能な形で強化されたとすれば、この苦労もムダではなかったといえるのではないでしょうか。
なお、エイチ・アイ・エスの株価は、2021年9月30日には3030円まで上昇しましたが、その後下落。まん延防止等重点措置の解除後は、2000円から回復傾向にあります。(こたつ経営研究所)