学生にまん延する「スロー族」と「寝そべり族」
こうした経済の失速を受けて、「史上空前の数の大学生が就職難に陥っている」と指摘するのは、公益社団法人・日本経済研究センターの首席研究員兼中国研究室長の湯浅健司氏だ。
湯浅氏のリポート「中国で浮上する新卒の就職難社会問題に」(4月27日付)のなかで、
「企業の採用意欲は盛り上がらず、これらが就職難を招いている。経済の一段の減速は就職難による失業の増大と社会不安をもたらす可能性がある。若者の間では無力感も漂い、就職を先延ばしする『スロー族』も増えている」
と述べている。
中国の卒業シーズンは6月だが、進学率の向上で今年の大学卒業生は1076万人と、史上初めて1000万人を突破する=図表6参照。だが、人民大学などの名門校でさえ、全員が希望通りに就職できない状態だ。ところで、「スロー族」とは何だろうか。湯浅健司氏はこう説明する。
「かつて文化大革命期には都市部の就職難を解消するため、学生ら強制的に農村に移住させる『下放政策』が行われた。いくら習近平氏が毛沢東氏と並ぶ指導者を目指していると言っても、現代中国ではこんな荒療治は無理だろう」
もっとも、就職難は学生の側にも原因があるという。中国の製造業、とくに成長分野の半導体などハイテク業界は優秀な人材を必要としているが、安定志向が強い学生はハイテク業界を敬遠する傾向があるという。
「学生は恵まれた環境で育った『一人っ子』が少なくない。彼らの多くは都会での穏やかなデスクワークを望む。理想の職業がみつからなければ卒業しても無理をして就職せず、しばらくは両親のやっかいになってブラブラする『スロー就職(慢就業)族』と呼ばれる若者も増えている」
「中国ではこれまで、将来を高望みしない若者を指す『寝そべり族』の蔓延が社会問題となっており、習指導部はこれを強く叱責してきた。失業者の増大だけでなく『スロー族』という新たな『民族』問題も、習氏を悩ませることになりそうだ」
こういう若者が増えていることこそ、中国経済の活力を失わせる大問題ではないのか。
(福田和郎)