自然循環の輪の中に自分がいる
白糸の森には、ツリーハウスも造った。「糸島青年会議所の職員から、人工林の問題を考える場所にしませんか? との提案がありました。素晴らしい案だと思い、さっそくツリーハウス造りのプロジェクトが始まりました」(大串さん)
その場で人工林や森の問題をじっくりと考えることができ、かつ居心地が良い空間をつくりたいと、2棟のツリーハウスをデッキで繋ぎ、さらにはコーヒーを飲んでもらう「森のカフェ」を造った。 「森のカフェ」の情報はSNSなどで瞬く間に拡散され、非日常空間を味わえる場所として話題になり、森の外にある県道まで行列ができた。
また、売り上げの一部は人工林保全のための間伐の資金としても運用。問題を体感しながらリラックスしてコーヒーを飲めるだけではなく、実際に来た人も問題解決の担い手として参加することができる仕組みを作り上げた。
二人はこの成功をもとに、次は里山の畑が放置されている問題に取り組む「畑のカフェ」も展開していくという。
じつは大串さんも前田さんも、もともと最初からサステナブルな取り組みについて興味があったわけではなかった。自然と向き合っていくうちに学んで考えるようになったという。循環させるということは後世に伝えていくということ。そのことを実感した出来事があった。
「田んぼにあった邪魔な石を取っていた時、外に出すのは面倒だからと、すでに昔からあった近くの石垣の隙間に石を入れていったんです。すると自分が入れていない見ず知らずの石がその隙間から出てきました。前の人も同じことを考えて同じことをしていた、自分もこの山の循環の輪の中にいると感じ、何だかうれしくなったんですね。そういった数々の体験から、循環させることの素晴らしさや大切さ伝えるために『白糸の森』を使って、それを表現しているんです。草も石も土もムダなものは何もなく、全部が里山を循環させるのに必要なものとして捉え、その地域に見合った方法でどう活かしていくかを考えている。
二人ともサステナブルな取り組みをしようと思ってやっているわけではなく、自分たちが良いと思って取り組んでいることが結果的にサステナブルになっている。そういった自然な取り組みに魅力を感じて、人が人を呼び良い循環として地域に広がっていけばいいと思っています」
大串さんは、そう話す。
二人には大きな目標がある。それは「白糸の森」を若い人たちにとって「エネルギーを与えられる場所」にすることだ。大自然の中で里山の暮らしを体験して自分を見つめ直し、エネルギーをチャージして生きる活力を与える場所。さらには、その場所で自分たちの体験をもとに、若い人たちも生活できる仕組みをつくっていきたいという。
自然循環とは――。二人は「山などの自然ではなく、そこに暮らす人々の豊かさを後世まで残すこと。それが本当の意味での自然循環なのです」と、口をそろえる。
そんな二人を動かす原動力は「好奇心」だ。「その土地にあるものを最大限に活かして大事にする」というモットーがある。
(日本のいいとこ探検隊)