ITは日進月歩。日々新しい技術が登場しては、さまざまな手間を省いてくれる。その一方で、いろいろなサービスが乱立して、なにをどうすれば効率化に資するのか、わかりづらくなっている。
最近話題のIT人材、DX(Digital Transformation=デジタルトランスフォーメーション)人材が不足している中小企業はなおさらだ。まして社内に、ITに明るい人材が必ずいるとは限らない。そんな中小企業のために、DX研修を行っている株式会社プロイノベーションの代表取締役、久原健司さんにDXの「入口」について、聞いた。
チャットツールを上手に使うには「具体的に」「明確に」
<DX研修の「肝」はココ! あなたの会社はどう「進化」したい? どんなIT人材を求めているの? プロイノベーションの久原健司社長に聞く(前編)>の続きです。
――「コロナ禍のリモートワークではチャットツールを使う場面が増えた」という前回のお話の続きとなりますが、チャットツールを上手に使う工夫を教えてください。
久原さん「チャットツールの上手な使い方のポイントは、コミュニケーションの仕方にあります。これは今に始まった話ではないのですが、『すいません質問です。これどうしたらいいですか?』と、漠然と聞かれてしまうと、聞かれた相手も『どうしたらいいのか』と考える時間がものすごく長くなってしまいます。
そこで、『これどうしたらいいですか』ではなくて、具体的に質問する。たとえば、『○○で迷っていて、ネットで調べたらAとBとCがありました。ボクはBだと思うんですけど、どう思いますか?』と。このような質問であれば、聞かれた相手も一瞬で『Bでいいんじゃないかな』『システム情報だったらDっていうのがあるんだけど』みたいに、かなり短い思考時間で明確に答えられるようになります。相手の手間を減らしてあげる気遣いや工夫がチャットツールを上手に使いこなすうえで重要だと思います」
――ちなみに、チャットツールなどを使いこなせない人はどうすれば......。
久原さん「それは、使いこなせるようになってもらうしかないですね。表現の少しキツイですが、置いていかれる人が出てきても仕方がないと思っています。たとえば、自転車で旅行に行くときに、自転車乗れない人が1人いて、『それなら歩いて行きましょう』とはなりませんよね。ですから、対応できない人は、違うコミュニケーションで、それこそ出社して対面でやっていただくしかないのではないでしょうか。
江戸時代から明治時代にかけて、武士が取り残されましたね。それでも武士は生きていくために変わっていきました。これはちょっと極端ですが、やはりその変化に対応してことは、企業にとっても人にとっても重要。変化を恐れず、対応できる人になることが残された選択肢だと思います。とはいえ、現代は変化のスピードも急激なので、たくさんの人が置き去りにならないように、『やさしい』アプローチを用意しながら、粘り強く進めていくことが必要だと思います」
――今おっしゃった「やさしい」アプローチとはどのようなものでしょうか。
久原さん「(研修を受ける)受講者側が変化していくことはもちろんですが、ITやDXを推進する会社側もやっぱり変化していくことが重要だと思います。両方が変わっていかないといけません。つまり、レベルに合わせてどう育てていくかということです。
たとえば、当社の例では、チャットツールが使えないという話が出て、動画を用意しました。教える側はどうしても言葉や文字が多くなって、教わる側はイメージしづらくなってしまいます。そこで、動画を用意したのです。映像など目で見えるものは記憶に定着しやすいのがメリットです。
そこで、色や形でイメージできるように工夫しました。たとえば、『赤い』ボタンを押すとか、『リング』の形を用いるとか、パッとイメージできるようにしました。また、動画の場合、受講者が自分のペースで進められるので、動画のテーマはできるだけ細分化して、動画を多く用意しておく。すると、学習のスピードやわからないところに応じた閲覧ができるようになります。
1回で覚える人もいれば、3回かかる人もいます。でも、それぞれ自分の都合のいい時間帯に何度も見直せばよいのです。レベルに応じた研修ができれば、取り残された人たちの架け橋になります。リモートワークで集合研修がしづらくなってきている今、動画での研修は、ITやDXで取り残された人への有効な『やさしい』アプローチになりうると思います」