北海道・知床半島の沖合で乗客乗員26人が乗った観光船「KAZU I(カズワン)」が消息を絶ち、海上保安庁などによる行方不明者の懸命な捜索活動が続けられています。
悪天候が見込まれるなかでの「強引な」運航や無線設備の故障など、事実が明らかになるにつれて、いたたまれない気持ちが強まります。この事故を海外メディアはどう報じているのでしょうか? 英BBC報道は「なぜ、日本で?」と、疑問を投げかけています。
「『極寒の海』で観光船が消えた!」
ワクチン接種や陰性証明などの「条件」はあるものの、徐々に旅行に出かける人が増えて、世界各国の観光地が賑わいを取り戻しています。
ようやく自由に往来できる「日常」が戻ってくる...。そんな「久しぶりの休暇」を楽しむ人々を襲った痛ましい事故を、各国メディアが次々と報じました。
Japan Tourist Boat Missing With 26 Aboard
(乗客26名を乗せた日本の観光船が消息を絶っている:米ウオールストリートジャーナル)
miss:消える、逃す、外す
まずは、速報で「乗客26名を乗せた観光船が行方不明」というニュースを流したメディアが目立ちました。詳細情報が得られないなかでの速報から、この事故への関心度の高さが伝わってきます。「miss」はいろんな意味を持つ動詞ですが、この場合は「人や物がいない(ない)」、つまり「消息を絶つ」というニュアンスで使われています。
Tour boat with 26 aboard missing in frigid Japanese waters
(乗客26名を乗せた観光船が、極寒の日本の海で消息を絶っている:AP通信)
frigid:極寒の、寒さの厳しい
AP通信は、さらに「極寒の海」という情報を加えていました。日本メディアの海外向け英語ニュースは「『Hokkaido』(北海道)で観光船が消えた」と地名で報じていましたが、日本の気候や地理に詳しくない人にはピンとこないかもしれません。
Child's body found after tour boat sank in Japan's far north
(観光船が日本の極北で沈んだ事故で、子どもの遺体が見つかった:AP通信)
sank:sink(沈む)の過去形
AP通信は、「遺体が見つかった」という続報でも、「Japan's far north」(日本の極北で)としています。さらに「Child's body」(子どもの遺体)と伝えることで、読み手に事故の痛ましさを生々しくイメージさせています。
「Seven found from missing Japan tour boat」(消息を絶った日本の観光船から7人の遺体が見つかった)のように、人数を伝えるメディアが多いなか、AP通信の「伝え方」が一番印象に残りました。
「安全第の国なのに...なぜ?」
事故の詳細が明らかになるにつれ、なぜこのような事故が起きてしまったのかという疑問が深まります。英BBC放送は「何が悲劇を招いたのか」という疑問を投げかけています。
How a Japanese boat trip ended in tragedy
(どうして日本の観光船は悲劇に陥ったのか:英BBC放送)
end in :~という結果になる、~に終わる
東京特派員が書いたこの記事は、「disasters are not caused by a single mistake」(災害は1つのミスが原因ではない)という言い伝えを証明するように、今回の事故を招いたいくつかの要因を指摘しています。
なぜ、「強風で、波の高さが3メートルあった」のに「経験不足の船長」が、「安全装置が不十分な状況」で「凍てつく海」に出航したのか。
さらに、最も近いヘリコプター基地でさえ160キロ離れている北海道北東部の沿岸は、「救助活動の盲点」とされていることも伝えています。
「safety is almost a national motto」(安全がほとんど国のモットーとなっている)日本で、なぜ「人災」ともいえる痛ましい事故が起きてしまったのか...。BBC記者の疑問がグサリと胸に刺さりました。
それでは、「今週のニュースな英語」は「motto」(モットー、座右の銘、標語)を使った表現を紹介します。会社の方針を表す時などによく使われます。
Our motto is delicious and cheap
(わが社のモットーは、おいしく、安く、です)
Safety is our motto
(安全がわが社のモットーです)
Her motto is "Work hard, play hard"
(彼女のモットーは、「よく働き、よく遊べ」です)
コロナ禍を耐えて、ようやく取り戻しかけた日常を奪われてしまった犠牲者の方々。「久しぶりの家族旅行」「プロポーズを予定」といった一人ひとりの人生が報じられるたびに、事故の残酷さが浮かび上がります。海外メディアの報道からも、同じくコロナの時代を生きる記者の、激しい憤りが伝わってきます。
(井津川倫子)