「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~ケーススタディで考える現場マネジメントのコツ」では、現場で起こるさまざまなケースを取り上げながら、「上司力を鍛える」テクニック、スキルについて解説していきます。
今回の「CASE 2」では、「依存心の強い部下」のケースを取り上げます。
(わからないことがあったら何でも聞きなさいと言ってたのに!)
【部下(A君)】課長! いま少しよろしいでしょうか?
【上司(課長)】あぁ...。何かな。
【部下(A君)】この文書ですが、ここは1行空けたほうがいいでしょうか?
【上司】...そうだね。そのほうがわかりやすいんじゃないかな。
【部下】ありがとうございます! それから、次の中見出しのタイトルはこれでいいですか?
【上司】...いまひとつわかりにくいね。本文のポイントを簡潔に表さないと...。
【部下】そうですか...。ではこの部分の文章は、この表現で大丈夫でしょうか?
【上司】あのね。一つひとつ答えていてはキリがないだろう。まず自分でよく考えてはどうだ?
【部下】はぁ...。でもいまひとつ自信がなくて、書き進めてから無駄になっても困りますし...。
【上司】こっちだって忙しくて、困るんだ! とにかく、まず一人で一通りやってみてくれ!
【部下】はぁ...。(わからないことがあったら何でも聞きなさいと言ってたのに!)
営業用のプレゼン資料を作成する仕事の途中で、何かと細部について聞きにくる新入社員。「わからないことは何でも遠慮なく聞くように」とは言ったものの、上司も閉口ぎみです。
このケースほど極端でないまでも、新入社員や経験の浅い社員で、些細なことを何かと聞きにきたり、こまめにアドバイスや承認をしたりしないと、仕事が進まない部下はいるものです。一向に報告や相談がないのも問題ですが、いつまでも依存心が強い部下も困りもの。あなたなら、どう対処しますか?
「まず最後まで自分でやってみて」と自律的な行動を促す?
上記のケースのように、まずは部下に自力でやらせようとする場合、上司は次のように話すことが考えられるでしょう。
「そこまで細かいことを全部指示するのでは、せっかくキミに任せた意味がないと思うんだ。一度自分で考えて、最後まで作ってくれないか?」
これは、部下の力をある程度信じて仕事を任せたのだから、自力での完成に期待している、との気持ちも表したものです。まず、部下の自律的な思考を促し、自分でひと通りやらせたうえで、上司が出来栄えをチェックし、必要なアドバイスを行おうとの意図もあるでしょう。
しかし、何度かプレゼン資料作成の経験がある部下に対しては、こうした促しも有効ですが、初めての部下の場合には、そもそもゼロから取り組むのは難しいもの。上司から説得されても、結局どうしていいかわからず、ただ持て余してしまうことにもなりがちです。
ひと昔前の昭和の時代なら、「ここで甘やかさず、厳しく育てよう」とばかりに、叱咤激励や、「そんなことも判断できないのか!」「そのくらいのこと、まず自分で考えろ!」と発破をかける例も多くみられました。しかし、こうした上司の態度は、部下にとっては威圧的に感じられ、気の弱い部下なら萎縮してしまい、考えるどころではなくなってしまいます。
仕事の意味と成果を考えさせるヒントを与えよう
そこで、自分で判断せず、すぐに質問をしてくる部下に対しては「キミはどう思う?」と聞き返してみることです。上司がどう評価し決定するかをまず気にするのではなく、部下自身の中に徐々に判断の軸を持てるようにしていくことが育成です。
ただ、「どう思う?」と問うことで本人の考えや意見がなかなか出てこない場合は、考えさせるためのヒントを与えるようにしましょう。
「この文書は何のために作っていて、誰が読むものなのかわかる? 読む人の立場に立って、どうすればいいか考えてみて。」
「お客さんは何を期待してこれを読むか、わかる? その表現で伝わると思う?」
「読むのは年配の方だよね。文字をびっしり詰めると、どうなるかな?」
といった具合です。
常に仕事の意味や目的を考えさせるように習慣づけることは、部下を育てていくうえでの基本です。依存心の強い部下の場合には、折に触れ考え方のヒントを与えながら、自律的に判断ができるように根気よく支援していきましょう。
※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著「本物の上司力~『役割』に徹すればマネジメントはうまくいく」(大和出版、2020年10月発行)をご参照ください。
※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。
【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授
人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、ウーマンエンパワー賛同企業 審査員なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の「上司力」』(大和出版)等30冊以上。近刊は『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks、2021年9月)および『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所、2021年11月)。