物価上昇の「痛み」を我慢させるだけの支援
一方、エコノミストたちはどうみているのだろうか。
「緊急対策には物価上昇を止めるという発想はなく、すでに起こってしまった物価上昇の『痛み』を我慢する内容だ」と批判するのは、第一生命経済研究所の首席エコノミスト熊野英生氏だ。
熊野氏のリポート「政府の物価対策~『止める』より『我慢する』対策~」(4月26日)では、「物価上昇の『痛み』を我慢する受け身の対策」の問題点を以下の4つに整理している。
(1)家計給付が止まらない=低所得の子育て世帯支援のため子ども1人当たり5万円が支給される。コロナ禍で政府は給付金を連発、野党の多くも賛成しているため、誰も批判しなくなってきた。岸田政権は、約半年のうちに2度も大きな給付金を散布。財政出動の巨大化に対する懸念が希薄化した。
(2)ガソリン対策だけで十分か=政府はガソリン補助金を引き上げる方針だが、ガソリン以上に電気代・ガス代のほうが家計の負担増になっていることへの対応ができていない。電気代は、市況高騰から8~9か月のタイムラグで料金に反映するので、4月の市況は今年末頃から表れてくる。目下の電気代上昇だけでも前年比20~25%増なのに、それが少なくとも年内にわたって継続することへの手当てが行われていない。
(3)円安対策をどう考えるか=物価上昇の「痛み」を、政府が緩和しようとすることには限界がある。政府が行うべき対策は行き過ぎた円安を止めることだ。相場をコントロールすることは無理なので、日銀の金融緩和の姿勢を再考してもらうということになる。
(4)中長期の視点があってもよい=政府の物価対策だが、実質は円安対策の側面が大きい。円安は、日米金利差が拡大する限り継続する。つまり、物価上昇を「我慢する」だけでは、財政資金がいくらあっても足りなくなる。むしろ、円安メリットをいかに多く取り込むかが中長期の円安対策となる。
製造業のなかでも輸出割合が低い中堅・中小企業の輸出拡大や、小売業関連で越境EC(国際的電子商取引)により海外販路を伸ばせるよう、公的機関が斡旋することも手だ。訪日外国人観光客にとって「安い日本」が魅力になる。近い将来、インバウンド需要を再開することを政府は考えてもよい。
......などと、「一過性ではない円安対策を練ること」を岸田政権に求めた。