「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。
思考力を鍛え、脳の力を高めてくれる良書
ゴールデンウィークを前に、各誌とも今週と来週の合併号を発行した。「週刊東洋経済」(2022年4月30日・5月7日号)は、昨年に続き読書特集だ。「世界激震! 先を知るための読書案内」では、ウクライナ戦争で注目されている地政学本を軸に、転換期に読むビジネス書、教養書などを紹介している。
ロシアのウクライナ侵攻を機に、「ポスト冷戦といわれた時代が完全に幕を下ろした」と見る評論家の與那覇潤氏は、冷戦後の「原理主義」に染まらないための読書を勧めている。
まず、1974年の英国の小説「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」(ジョン・ル・カレ著、ハヤカワ文庫NV)を挙げている。登場するソ連の工作員は、KGBの出身で、いま再び西側への挑戦者となったプーチン大統領を予言したとも読めるという。
「ハロー、ユーラシア」(福嶋亮大著、講談社)は、中国の事例を中心に、ロシアも含めたユーラシアで原理主義的な思潮が勃興する様子を描いた本。「西欧近代なんかクソ食らえ。うちにはうちのやり方がある」という気分が各地で高まっているという。中国はともかくインドも今回、ウクライナ支援に回らない背景には、そうしたナショナリズムがあるのだろうか。
原理主義を回避するには、思想よりも「時間の幅」が広い伝統が役に立つ、と説く。日本人にとっては、柳田国男の「先祖の話」(角川ソフィア文庫)が有益だそうだ。ほかに、「チョンキンマンションのボスは知っている」(小川さやか著、春秋社)が描くのは、香港の巨大雑居ビルに住むアフリカ系零細商人の日常。ドライな相互扶助もまた、原理主義を発生させないやり方だ、と推している。
ウクライナ戦争と地政学関連として、産経新聞の前モスクワ支局長の遠藤良介氏が勧めるのは、「プーチンの世界」(フィオナ・ヒルほか著、新潮社)。この戦争は「プーチンの狂気」によるものではなく、長年にわたって築かれた思考回路の帰結にほかならず、プーチン大統領は「帝政ロシアとソ連のいいとこ取りを理念にした」と指摘しているという。
ウクライナ戦争と日本経済に関して、ロシアNIS経済研究所所長の服部倫卓氏は、「現代ロシアを知るための60章【第2版】」(下斗米伸夫ほか編著、明石書店)を挙げている。ロシアの地域研究の良書だ。明石書店の「エリア・スタディーズ」というシリーズで、ウクライナ編も出ている。
「いま読むべき10冊のビジネス書」からいくつか挙げよう。経営コンサルタントでアンテレクト会長の藤井孝一氏の推薦だ。
「アルゴリズム思考術」(ブライアン・クリスチャンほか著、早川書房)、「エッセンシャル思考」(グレッグ・マキューン著、かんき出版)、「サイコロジー・オブ・マネー」(モーガン・ハウセル著、ダイヤモンド社)、「平成の経済」(小峰隆夫著、日本経済出版)。
読むのに時間がかかる分、思考力を鍛え、脳の力を高めてくれる本を選んだという。
書店員が選ぶランキングから選ばれたのが、「新しい世界の資源地図」(ダニエル・ヤーギン著、東洋経済新報社)、「13歳からの地政学」(田中孝幸著、東洋経済新報社)、「物価とは何か」(渡辺努著、講談社選書メチエ)などだ。
教養、文学、哲学などの本も紹介しているので、連休中の読書の参考になるだろう。