コロナ禍で自信持った中国の現在地...日本への「インバウンド」は復活するか?

富士フイルムが開発した糖の吸収を抑えるサプリが500円+税で

   新型コロナウイルスの感染拡大を封じ込めたとされる中国で、2022年春になり再び感染が拡大、上海では都市封鎖(ロックダウン)が続いている。厳しいゼロコロナ政策は中国でどう受け止められているのか?

   本書「いま中国人は中国をこう見る」(日経BP)は、こうした疑問に答えるとともに、人権問題や覇権主義などで世界から厳しい目を向けられている中国に対して、中国人自身はどう見ているのか、報道されない本音に迫った本である。

「いま中国人は中国をこう見る」(中島恵著)日経BP

   著者の中島恵さんは、北京大学、香港中文大学に留学。新聞記者を経てフリージャーナリストに。中国の社会事情、ビジネス事情に詳しい。著書に「中国人エリートは日本人をこう見る」「中国人のお金の使い道」などがある。

  • 中国人自身は自国をどう見ているのかに迫った一冊
    中国人自身は自国をどう見ているのかに迫った一冊
  • 中国人自身は自国をどう見ているのかに迫った一冊

なぜ中国政府は「ゼロコロナ」にこだわるのか?

   中国のゼロコロナ政策は非常に厳しい。感染者が見つかると、たちまちその地区は完全に封鎖され、住民全員のPCR検査を行うのが基本だ。

   海外からの入国者に対しても厳しい措置を取り続けている。首都・北京市への海外からの直行便は停止しており、それ以外の大都市を経由することになる。乗り換え前に、到着した都市での隔離が待っている。

   北京市が最終目的地である場合、最長で4週間の隔離期間が必要になるという。なぜ、中国政府は「ウィズコロナ」を認めず、「ゼロコロナ」にこだわるのか。中島さんは北京在住の友人の話を紹介している。

「これまで中国は政治体制のおかげでコロナを抑え込めていたのだ、と宣伝してきたために、もし抑え込めなかったら、今度は自分たちに批判の矛先が向いてしまう。だから、絶対に『ゼロコロナ』でなければならない。引くに引けない状況なのだと思います。国民も、政府がゼロコロナといったらゼロコロナ。否応なく、従わざるを得ない」

   中島さんの取材では、7~8割が賛成、2~3割が反対という印象だそうだ。「習近平政権に批判的だった人たちが、コロナの封じ込めを機に、政府批判をやめるようになった」という声を紹介している。

   アメリカでの感染者数、死者数が中国に比べてケタ違いに多いため、「アメリカへの憧れが、コロナで吹き飛んだ」という声もある。また、2021年夏、東京都の1日の感染者数が5000人を超えた頃、中島さんは上海の男性から「なぜ遊びに出かけるのか。一体、日本人は何を考えているのか」と詰問され、返答に窮したそうだ。

   日本のコロナ対策は「手ぬるい」「緩すぎて話にならない」と否定的な声が多く、帰国した在日中国人もいたそうだ。

   もちろん厳しすぎる規制に不満を持つ人もいる。2021年11月、そんな不満を示唆するような、警察官をからかう投稿をSNSでした男性が当局に拘束された。この一件は、政府のコロナ対策に不満を漏らすと、必ず「ひどい目に遭う」ことを世間に知らしめたという。

   SNSで政治に対する意見を堂々と言えなくても、日常生活で経済的な豊かさを実感する機会が増えていることに満足している人が多い。コロナの感染拡大を防いだことが政権を支持する理由になっているようだ。

若者を中心としたナショナリズムの高まり

   コロナ禍で海外旅行ができなくなり、国内旅行に目を向ける中国人が増えているという。

   中島さんは、中国のSNSを見て、「コロナ禍によって、中国人が自分の住む省や市以外の地に関心を持ったり、心を寄せるようになった」と感じている。

   こうしたナショナリズムの高まりに、1章割いている。2021年8月末、遼寧省大連市に「盛唐・小京都」という観光スポットがオープンしたが、1週間で営業休止に追い込まれた。総面積約63万平方キロに約60億元(約1068億円)をかけて、京都と唐の時代の街並みを再現したビッグプロジェクトだが、ネット上で「日本の文化侵略だ」などの批判が高まったためだった。

   しばらくして、名称から「京都」を外し、日本の色合いを薄めて再開されたが、若者を中心としたナショナリズムの高まりの例として紹介されている。日本など海外を褒めること=中国を貶すことだと曲解され、猛烈な批判を浴びるようになったという。こうした傾向は、コロナ禍をきっかけに強まったようだ。

「Z世代」の若者たちで日本の「昭和」がブームに

   一方で、日本の「昭和」にハマる若者たちが増えてきたという。1995年頃から2010年頃に生まれた「Z世代」の若者たちの間で、中森明菜、松田聖子らのアイドルの音楽、ファッション、写真への関心が高まっているというのだ。日本の若者の間に広がった昭和ブームが、中国の若者にも影響を与えているという分析を紹介している。

   大学入試でも外国語を英語ではなく、日本語で受験する高校生が急増。日本語選択者は2016年には1万人にも満たなかったが、2021年には約20万人を突破した。英語よりも比較的簡単に高得点が取れるなど実利のほか、日本語のアニメやドラマなどの影響があるのでは、と見ている。

   しかしながら、彼らの日本製品への憧れは薄い、と指摘している。かつての中国人にとって、日本製品は「憧れの的」だったが、Z世代の若者は日本製品に対して、そうしたイメージは悲しいくらい持っていないという。

   そうした若者たちの傾向をキャッチし、商品化に成功しているのが、中国の新興ブランドの経営者たちだという。多くが20~30代で、欧米への留学や旅行経験もあり、世界のトレンドを熟知している。

   「日本製より中国製、デザインや品質も中国製のほうがずっといい」という若者の姿に、中島さんは日本企業の危機を感じている。

   日本にとって残念な結論で終わるかと思ったら、そうではなかった。

   エピローグでは2020年以降、上海に蔦屋書店、ロフトなど日本の店の進出が相次いでいることに触れている。日本関係の店は中間層以上の上海人の間で、「日常生活」の一部になっているという。中島さんは

「自由に往来できなくなったことで、中国の中の『日本』の存在感は熟成されているのではないかとすら感じる」

と書いている。

だとすれば、コロナが終息すれば、また中国からのインバウンドは復活するのではないか、そんな予感がした。

(渡辺淳悦)

「いま中国人は中国をこう見る」
中島恵著
日経BP
990円(税込)

 
姉妹サイト