「円安」が輸出産業の追い風になりにくい事情
一方、現在の「円安」にも擁護論がある。自動車や機械、半導体など輸出産業に追い風になるということで、日本銀行の黒田東彦総裁が「円安は日本経済全体からみるとプラスだ」と主張する根拠の1つになっている。
しかし、「円安は以前ほど日本企業の追い風になりにくい」と指摘するのは、野村アセットマネジメントのシニア・ストラテジスト石黒英之氏だ。石黒氏のリポート「円安と日本の企業業績の行方(下)」では、大事なポイントとして、日本企業の海外生産が加速していることをあげている。
図表3は、日本の海外現地法人の売上高と日本の輸出総額の推移を比較したグラフだ。これを見ると、2007年に比べて2021年の日本の輸出総額はほぼ横ばいだが、海外現地法人の売上高はグンと伸びている。どういうことか。石黒氏がこう説明する。
「以前ほど円安が日本の企業業績を見るうえで、追い風になりにくい収益構造となっている点です。実際にデータで確認すると、2007年1~3月期と比較し、直近2021年10~12月期の日本の輸出総額は12.8%増にとどまっているのに対し、海外現地法人売上高は同期間で80.1%増となっています(=再び、図表3参照)」
日本企業の海外生産の加速したため、日本企業の為替依存度が低下したのだ。石黒氏はこう結んでいる。
「こうした収益体質の変化が以前のような円安・株高をもたらさない要因になっているとみられます。円安が日本企業の業績を支えるものの、過度な円安は、運用パフォーマンスの悪化につながる海外投資家の日本株離れを招きかねません。為替に依存せずとも、技術革新の追求や自社株買いの積極化を通じて、日本企業の競争力・収益力が強化されることが、長期的な視点でみた日本株の課題といえそうです」
(福田和郎)